自分のスタイルをつくる
学び舎通信 93
勉強は心構えが大事
勉強の成果は、心構えで違ってきます。「しっかり勉強しよう!」という気持ちのある子どもはぐんぐん伸びます。
江戸時代の国学者、本居宣長は「初山踏」という文章を書きました。これは、今の言葉で言えば勉強の方法論を書いた本ですが、宣長自身は、こんなことはすこしも書きたくなかったのです。
宣長は、自分の学問にゆるぎない自信を持った晩年になっても、学び方を弟子に説く自信はまったくありませんでした。そこで結局は「詮ずるところ学問は、ただ年月長く、倦まず怠らず励み、努むるが肝要なり」と書きました。これは「勉強はいくら学び方を教えられても、学ぶ本人が励まなくてはだめであろう。怠っていてはだめであろう。それなら勉強するのに大事なことは、怠けないことと長い年月をかけることなのだ」という意味です。
宣長はこんなことも言っています。「学問は教えられた方法どおりにしてよいものか、よくないものか。学問をしようとする弟子たちは、一人一人みな違う。それぞれにまったく違う個性を持った弟子たちなのである。そういう弟子たちに、学問はこういうふうにするのだなどと大雑把なことが言えるわけがない、実のところはただ各人の心に任せておくがよいであろう」
自分のスタイルをつくる
するべきことを一生懸命にする、それを何年も続けていれば、自分の勉強方法が見つかります。
学問の世界で大きな仕事を成し遂げた人には、人には知れない秘密や秘訣があるのではないかと考えたくなるのが人情ですが、そのようなものはありません。しかし、ひとつ言えるのは、大きな仕事を成し遂げた人には「自分のスタイル」があるということです。「自分のスタイル」とは、研究を進めて成果を出すまでの仕事のやり方のスタイルです。
勉強のよくできる子どもは、「自分のスタイル」を持っています。そういう子どもはどうやって「勉強のやり方のスタイル」をつくったのでしょうか?
よくできる子どもたちは、宿題をきちんとしたり、間違った問題をできるようになるまで繰り返し練習したり、わからない問題を質問したりします。そうしていくうちに、勉強の基本の型を身につけていき
ます。そして、基本の型を自分の勉強しやすいように工夫して、「自分のスタイル」をつくっています。
不可能を可能にする
日本大学大学院総合科学研究科教授の林成之さんは、人間の脳の力について次のように言います。
「人間の脳は、強く望めばそれを可能にする力を持っているのです。私も長年、救命が不可能と思われる患者を見るたび『けた違いのすごい医者になって、あらゆる知識・技術を駆使して必ず治る医療をめざそう』と考えることにしてスタッフ全員で討議を繰り返し、そのつど危機的状況を切り抜けてきました。不思議なことにそう考えていれば、もう不可能と思われた難問でも、必ず切り抜ける方法が生まれてくるのです。
基本的に私は、人間の脳は本気になればとてつもない力を発揮すると信じています。医療における難問も勉強における難問も、脳を使うことには変わりはありません。練習では誰も真似のできないレベルまで自分の学力を磨くのだと考え、課題を一つ一つ丁寧に解決していく訓練を重ねるのです」
強い心
嫌なこともたくさんある人生をよりよく生き抜くためには、何があってもへこたれることのない「強い心」が必要不可欠だと思います。どんなことがあっても、夢や目標の実現に向かって突き進むために、子どもも、大人も、だれもが持つべきものは「強い心」だと思います。
「心」というものは固定的なものではありません。間違いなく変わります。今日は元気でも、明日になったらどうなるかはわかりません。けれど逆に、いまは「自分は心が弱い」と思っていても、本当に弱かったとしても、この先もずっと弱いままでいるとはかぎりません。だれの心も、変わっていくからです。だからこそ、心が変化していくときに正しい方向へ変えることができれば、弱い心を強い心へと変えていくことができると思います。
がんばる気持ち
常に現状よりレベルの高い目標を設定することで、「がんばる気持ち」は刺激を受けます。そして、「自分はきっとできる」という信念を持って、迷うことなく挑戦を続けることができます。
「がんばる気持ち」にとって、夢や希望というのは、常にレベルを上げて新しくすべきものです。夢を叶えることが幸せなのではなく、夢に向かって自分の持っている力を発揮し続けること、いまの自分を越えていくことが幸せに思えるはずです。
そして、それこそが人生をよりよく生きることだとわかると思います。
成功するイメージ
1960年代にマックスウェル・マルツというアメリカの形成外科医が成功についてこう言いました。
「人間が成功する否かは現状の受け取り方次第であり、成功するイメージさえ持っていれば必ずそこにたどり着くことができる。具体的なアドバイスとしては、できるだけ陽気にふるまう、他人に好意的にふるまう、そうありたいと思っている自分になったつもりで行動する、悲観的なことは考えないということを習慣づけるとよい」
強く念じたことは実現する
合気道師範の多田宏さん(81歳)は、「強く念じたことは実現する」と言います。言葉の力を侮ってはいけません。「どうせワタシなんか…」と言う人は、実際にそういう悪い状況になってしまいます。自分の状況を否定的に言うことは「自分に呪いをかける」ことになります。「よいこと」を強く念じていれば、いつの間にか夢が実現するはずです。
武道の目的は「人間の生きる知恵と力を高めること」です。「生きる力」の一つに「胆力」があります。「危険な状況になっても慌てず、平静な気持ちを維持できる人間は、そうでない人間より生き延びる確率が高い」と多田さんは言います。
自信
「自信」は文字どおり、自分の力を信じることです。
文芸評論家の小林秀雄はこんなことを言いました。
「自信というものは、いわば雪の様に音もなく、いつの間にか積もった様なものでなければ駄目だ。そういう自信は、昔から言う様に、お臍の辺りに出来る、頭には出来ない」
お臍のすぐ下の腹部のことを臍下丹田と言います。「臍下丹田に力を入れると勇気と元気が得られる」昔の人と言いました。
諦めないで続けることが力になる
登山家の田部井淳子さんは、1975年に世界最高峰エヴェレストに女性として世界初の登頂に成功しました。そして、1992年に女性で世界初の7大陸最高峰の登頂に成功しました。田部井さんは女性だけの登山グループ、「森の女性会議」を作りました。そのメンバーのひとりに、検事のSさんがいます。
Sさんは高校卒業後、大学進学は家庭の都合で断念し、スチュワーデスになりました。2年間国際線で勤務し、結婚後退職しました。専業主婦になりましたが、もう一度社会復帰したいと思い、慶應大学法学部の通信教育に入りました。しかし、母親が糖尿病のため55歳で失明し、両親と同居しました。失明した母親の世話は、本当に大変でした。
通信教育で大学を卒業し、司法試験のための勉強を始めました。看病しながらの勉強でした。その間に母親の食道がんの手術があり、夫は大腸がんの手術を受けました。次は父の入院でした。「私の半生は看病づくめだった」と語るSさん。何度も不合格になりましたがSさんは諦めませんでした。母親の死、続いて父の死。火葬場で父がお骨になる間も試験の本を読んだと言います。2日後の試験で合格。13回目の試験で合格したときは、46歳になっていました。「父に合格を知らせたかった」と言うSさん。
困難を克服して夢をつかんだSさんは「本当に継続は力よ」と言います。
力を尽くせば成し遂げられる
山岳雑誌「山と渓谷」(2007年1月)に、毎日登山を続け、2006年9月20日、ついに連続登頂8000日を達成した人の記事がありました。
三重県伊勢市に住む東浦奈良男さん(当時81歳)は、日照りのなかも、嵐の日も、毎日、山に通い続けています。東浦さんは、35年間勤めあげた会社を退職した翌日の1984年10月26日から、一日一山を登る生活を始めました。
「やめたいと思ったことはありますか」と尋ねると、「もしやめたら楽だろうなあとは思います。でも、楽は好きじゃありません。山の空気を吸っていると本当に気持ちがいい。自分の足で歩き回って山に親しんでいるのが好きなんです。家を出るときよりも、帰ってくるときの方が元気になっている気がします」
好きな言葉は、吉田兼好の「徒然草」の一節「ひとつの事をやり遂げようと思ったなら、他の事で失敗してもくよくよしてはいけない。すべてを犠牲にしてでも力を尽くさなければ、大きな事を成し遂げることはできない」だそうです。
2012年3月12日に1万日達成予定。