一流の人は「続ける技術」を持っている
学び舎通信 69
竜頭蛇尾になってはいけません
「できる」ようになるには、どうすればよいのでしょうか?
NHKのラジオ第2放送に、いくつかの語学講座があります。そのひとつに『基礎英語』という番組があります。『基礎英語1』、『基礎英語2』、『基礎英語3』と分かれており、それぞれ、中学1年レベル、中学2年レベル、中学3年レベルになっています。
これは優れた講座で長く続いています。私も33年前の中学1年生の時、毎朝早起きして6時からの放送を聴いていました。昨年10月から再びNHKラジオの『徹底トレーニング英会話』という講座を聴いています。
NHKによると、4月には語学講座のテキストがよく売れるそうです。しかし、5月、6月と経つうちに売れ行きが悪くなるそうです。新学期の初めは、みんな「よーし、がんばるぞ!!」と意気込むのですね。けれども、時間が経つうちにその気持ちが徐々に弱くなっていく人が多いのでしょう。
「がんばるぞ!」という気持ちを持ち続けた人が、力をつけていきます。最初から「才能」のある人はいません。練習を続けることによって、自分で「才能」を育てていくのです。
「竜頭蛇尾」とは、頭が竜のように立派なのに、尻尾は蛇のように貧弱だということから、始めは勢いがよいのに終わりの方はさっぱりだめになることのたとえです。
「初心忘るべからず」。はじめに心に決めたことを忘れずに、目標を達成するためにガンバルのです。ガンバルことを楽しむと、長続きします。
練習をしていて途中で思うように上達しないことは、誰にでもあるのです。でもね、そこで諦めてしまえば、今までしてきた練習は、ゼロに等しくなってしまうのです。諦めずに、へこたれずに、練習を続けるのです。そうすれば、また、進歩できるときがやってきます。
一流の人は「続ける技術」を持っている
マリナーズのイチロー選手は、こんなことを語っています。
「夢をつかむことというのは、一気にできません。小さなことを積み重ねることで、いつの日か、信じられないような力を出せるようになっていきます。」
「いままで自分がやってきたことを、しっかり継続することが、イチローという選手の能力を引き出すためには、はずせないことです。」
「過去の積み重ねがどれだけ大事なものかは、感じています。それがなければ、今の技術や精神は作られなかったのですから。」
できる人には、共通したところがあります。イチロー選手は、グローブやバットやシューズなどを大切にしているそうです。学び舎でもノート、テキスト、プリント、筆記用具などの勉強道具を大切にしている人は、勉強ができます。また、イチロー選手は練習の始まる1時間前には、グラウンドに着いているそうです。日常の行動を変えることで、意欲が生まれてきます。
将棋の羽生善治さんが書いた本に『決断力』があります。その本の第5章「才能とは、継続できる情熱である」にこう書いています。
「以前、私は、才能は一瞬のきらめきだと思っていた。しかし、今は、10年とか20年、30年を同じ姿勢で、同じ情熱を傾けられることが才能だと思っている。直感でどういう手が浮かぶとか、ある手をぱっと切り捨てることができるとか、確かに個人の能力には差はある。しかし、そういうことより、継続できる情熱を持てる人のほうが、長い目で見ると伸びるのだ」
「やっても、やっても結果がでないからと諦めてしまうと、そこからの進歩は絶対にない。周りのトップ棋士たちを見ても、目に見えて進歩はしていないが、少しでも前に進む意欲を持ち続けている人は、たとえ人より時間がかかっても、いい結果を残しているのである」
決め手は「続ける力」
司法試験の受験指導を25年以上している伊藤真さんは、続けることの大切さについて次のように言っています。
「最難関といわれる司法試験の合格・不合格を分ける決定的な能力は、『続ける力』です。
法律の勉強は語学学習に似て、マスターするためには知識だけでなく、『慣れ』が必要です。『慣れる』ためには、ある程度の時間をかけて、地道にコツコツと、同じことを繰り返して勉強を続けるしかありません。
2年で受かるのか5年で受かるのか、もちろん個人差はあります。しかし、残念ながら不合格のまま終わる人は、頭が悪かったのではなく、勉強を続けられなかっただけの場合がほとんどです」
ある統計に「100人いる中で、よいことを『よし、やってみよう!』と実行できる人は10人しかない。そして、そのよいことを実行し続けられる人は1人しかいない」という意味のことが書かれていました。
これを見ても続けることが、いかに難しいかわかりますね。しかし、しかしです。その一人になるのです。100人いようと1,000人いようと、最後まで続けられる一人になるのです。
素直に学べる人は「続ける力」を持っている
剣道、書道、茶道といった「道」のつく世界では、修業の段階について、「守・破・離」という言葉があります。もともとは室町時代に能を大成した世阿弥の言葉だと言われています。
「守」とは、指導者の教えを忠実に守って、基本の型をしっかり身につける段階のことです。
「破」とは、学んで身につけた基本の型に自分のオリジナリティー(独創性。他人のまねをしないで自分一人だけの考えで新しく物事を作り出すこと)を加える段階のことです。
「離」とは、さらに指導者から独立して自分の道を切り開く段階のことです。
この3つの段階を経て、初めて一人前になることができると言われています。真面目にコツコツ努力を続ければ、誰でも一人前になることができます。
ところが、素直でない人は、最初の「守」の段階で、基本の型を受け入れることができません。変な自信があったり、いろいろな情報に迷わされたりして、指導者の言うことを聞かないからです。
「続ける」ためには、まずきちんとした基本の型を身につけることが不可欠(ぜひともなくてはならないこと)なのに、それでは何も身につきません。ひとつのことを成し遂げるには、まずは、言われた通りのことをする素直さが大切なのです。
一流の人ほど基本を大事にしています。伸びる人の共通点は、「基本を大切にして繰り返し勉強する」という点です。
熱心に質問する人も伸びます。その人たちは決して難しい質問をしたり、レベルの高い発言をしたりしているわけではありません。他の人と違う点は、「こんな初歩的な質問をしたら恥ずかしい」と思って質問するのをためらったりしないことです。
あなたはがまんできますか?
(ダニエル・ゴールマン著『EQこころの知能指数』の「マシュマロ・テスト」を参考にします)
あなたが4歳の子どもだとします。「ちょっとお使いに行ってくるからね。おじさんが戻ってくるまで待っててくれたら、ごほうびにこのケーキをふたつあげる。でも、それまで待てなかったら、ここにあるケーキひとつだけだよ。そのかわり、今すぐ食べてもいいけどね」と言われて、おじさんが戻ってくるまで、がまんして待つことができますか?
これは実際に、アメリカのスタンフォード大学で行われた実験です。何人かの子どもたちは長い時間がまんして待つことができました。しかし、おじさんが部屋を出た直後にケーキを食べてしまう子どももいました。
高校を卒業する時点で、その子どもたちを評価してみたところ、4歳の時に忍耐強く待つことのできた子どもは、そうでない子と比較して、学業の面ではるかに優秀なことがわかりました。集中力があり、計画を立てて実行する能力にすぐれ、学習意欲も高いそうです。がまんできなかった子どもたちの成績は、良くありませんでした。
また、4歳のときに誘惑(人の心を迷わせ、悪いほうにさそいこむこと)に耐えることのできた子は、青年になった時点でより高い社会性を身につけていました。対人能力にすぐれ、きちんと自己主張ができ、人生の難局に適切に対処できる力がついていました。少々のストレスで行き詰ったり後退したりせず、プレッシャーにさらされても狼狽(思わぬことに直面してうろたえること)したり混乱したりすることが少ない。困難な課題にもすすんで立ち向かい、難しそうだからといって投げ出したりしないそうです。
みなさんの周りには、テレビやゲームなどのさまざまな誘惑がありますね。それらの誘惑に負けない、がまんする能力があるかどうかでみなさんの人生が決まると言えます。