夜明け前が一番暗い
学び舎通信 141
自然の力
「最近の子どもたちは、落ち着きがない、我慢ができない、他人と上手にコミュニケーションが取れない、バランス感覚が悪い、そもそも体が弱い」と言われています。「自然体験が足りないせいではないか。自然の中で育っていないから、脳のバランスがおかしくなっているのはないか」と考えられるようになってきました。
ナチュラリストで作家のC. W. ニコルさんは、「子どもの生きる力を育むためには、自然の力が不可欠だろうと思います。子どもたちの周りには、森とか海の自然が必要なのです。子どものときに、自然の中で遊ぶ機会がなければ、何が正しいのか、何を理想とすべきなのかがわからなくなってしまいます」と言います。
わたしが子どもの頃に住んでいた小さな田舎町には、雑木林とか原っぱがあって、子どもたちは日暮れまで走りまわって遊んでいました。真っ青の空に浮かぶ白い雲や沈む夕日を眺めたり、風のそよぎを感じたりしながら、わたしたちは自然の中で遊んでいました。自然の美しさにふれたとき、やさしい気持ちになっていくのを感じました。自然には、命を生み、命を育て、命を守る力があります。自然の中で遊べば、そんな自然の力を感じ取ることができます。
生きる力
みなさんはお母さんがせっかくご馳走を作ってくれても、「これは嫌い」とか「もうおなかがいっぱい」とか言っていませんか。家族の団欒よりテレビやゲームに夢中になっていませんか。
世界の辺境の地を旅する作家の椎名誠さんは、「日本のように恵まれた環境にいる子どもよりも、恵まれない環境にいる子どものほうが日々の糧に感謝する思いが強い。家族との団欒を大切にする思いが強い。粗末でも食事ができること、家族が小さな家の中で肩を寄せ合って生きられることをうれしいと感じているから、目の輝きが違う。そういうささやかな幸せをいずれ自分も築き、守るんだという実感があるから、生命力が強く感じられる。彼らを見ていると、『たくましく生きているなあ』と感じる」と言います。
わたしが子どもの頃は、自分で遊び道具を作っていました。40年くらい前までは、子どもは自分で工夫して遊び道具を作るのは、当たり前のことでした。今、振り返れば、こうした子ども時代の経験を通して、知恵と想像力が育まれたのだと思います。
昭和40年代の小さな田舎町の子どもたちは、肥後守という小刀を持って野山に分け入りました。林の奥に秘密基地をつくって、山の神を祭りました。そこは秘境であって、空想がどこまでも広がっていく場所でした。遊び道具の材料は、山の木や竹でした。自分で考えて自らの手で遊び道具を作り出す喜びは、貴重な経験になりました。自分の力で何ができるかを試すことで、生きる力が育まれました。
コツコツ続ける
自分のできる努力を、コツコツ続ける習慣を身につけるといいです。その習慣によって、自分の思っている力を超えることができます。
禅の修行の本質は、「繰り返し続ける」ことにあるそうです。修行僧は、くる日もくる日も厳しい修業に身を置きます。100日間、毎日、同じことを続けているうちに、坐禅も、読経も、お勤めも、修行すべてが習慣となり、身についていくそうです。繰り返し続けることで、体が覚えてしまうのです。
大リーグのイチロー選手は、「努力せずに、何かできるようになる人のことを『天才』というのなら、ぼくはそうじゃない。努力した結果、何かができるようになる人のことを『天才』というのなら、ぼくはそうだと思う。人がぼくのことを、努力もせずに打てるのだと思うなら、それは間違いです」と言いました。
気持ちを緩めることなくコツコツ努力を続けるというのは、易しいことではありません。一度何かの壁にぶつかると、そこでやめてしまう人がいます。その壁を突破すると、新しい展望が開けてくるのですが、壁にぶつかるとそこで諦めてしまう人がいます。
目標に向かってコツコツ努力を続けるということは、自分の力で一歩一歩前に進むということなのです。人に何もかも頼り過ぎてはいけません。生きてゆくのは自分です。「人の後ろからついて行けばいい」という気持ちで、「自分から積極的に道を開こう」という気持ちのない人は、コツコツ続けることはできません。
努力とスランプ
スランプとは「勉強をしているはずなのになかなか成績が伸びない」「勉強をしていてもなかなか捗らない」というような、自分の努力に見合っただけの成果が得られないと感じるときに起こるものです。
スランプは努力している人間にしか起こらない状態ですから、「努力をしてきた証」とも言えます。ですから、スランプに陥ったときは、「それだけ頑張ってきた証拠。一人前になった証拠」だと思って、自分を評価すればいいのです。
また、スランプは「障害や壁にぶち当たってしまった状態」です。しかし、「自分の前に現れる壁」は、自分が乗り越えようと努力すれば、乗り越えることができるだけの高さしかありません。ですから、その壁は、もう少し努力すれば必ず乗り越えることができるのです。そして、壁を乗り越えようと努力することが、自分を鍛え、成長させるのです。
「この壁は必ず乗り越えられる。乗り越える方法がある。そして、乗り越えたとき、新しい自分に成長できる」と考え、思い切って挑戦してください。
スランプに限らず、生きていく中で、様々な壁が現れます。壁はその人の成長に合わせて、至るところに現れてくるはずです。そのたびに、壁を乗り越えるのです。壁を乗り越えた経験は、その後の人生において、自信になり、尊い教訓になります。
スランプは努力の証であるとともに、新たな成長のためのチャンスなのです。
スランプを抜け出す唯一つの方法は、「素直に一生懸命に頑張る」ことです。
七転び八起き
そもそも人生は全てが計画通りにいくわけではなく、むしろ計画通りにいかないことのほうが多いものです。だから、生きていくことに予測不可能な面白さがあるのかもしれません。何度か計画通りにいかなかったからといって、そこでくじけてはいけません。自分の理想とする姿になるためには、一歩一歩着実に進むことが大事なのです。
計画を立てて、一歩進んだ。次の計画は実行できなかった。しかし、計画を立て直して頑張ったから、また一歩進めた。というように、計画がうまくいかなくても、挑戦し続けるのです。何度倒れても、また立ち上がればいいのです。大切なことは、立ち上がることです。向上心を持って、計画を立て続けることです。諦めずに計画を立て続けていくことで、少しずつ理想の自分に近づいていきます。
人間は、「七転び八起き」しながら、前進していくのです。人間は、「七転び八起き」しながら、成長していくのです。転んでも転んでも、その度に立ち上がって、力を尽くして、懸命にたたかうのです。何度失敗しても、めげずに頑張るのです。
松下電器(パナソニック)を創業した松下幸之助さんは、「失敗の原因を素直に認識し、『これは非常にいい体験だった。尊い教訓になった』というところまで心を開く人は、後日進歩し、成長する人だと思います」と言いました。
成長できる人は、素直な心を持っています。成長するためには、ひねくれたところがなく、純真な心を持っていることが、必要なのです。
夜明け前が一番暗い
実力は勉強量に比例して伸びるのではなく、あるときまでなかなか正解を書くことができません。それでも頑張ってコツコツ続けていると、一気に成績が伸びるときが来ます。
この一気に成績が伸びる直前の時期が、一番苦しく感じるのです。それは、コツコツ続けてきたつもりなのに自分の成績が伸びていないから、辛く苦しく思えるのです。まさに、実力が上がるすぐ目の前が、一番苦しいのです。
17世紀のイギリスの諺に、
It is always darkest just before the day dawns.
があります。「夜明け前が一番暗い」という意味です。
夜明けの直前は、最も暗く感じられるかもしれません。しかし、「朝の来ない夜はない」のです。「夜はどんなに長くとも、夜明けは必ず来る」のです。
高校を卒業するとき、担任の宮地先生はわたしに、
If winter comes, can spring be far behind? という、イギリスの詩人、シェリーの言葉を教えてくれました。日本では、「冬来りなば春遠からじ」という諺になっています。辛い時期を凌げば、必ず幸福なときがやってくるという意味です。
北風が吹きすさぶ過酷な冬は、やがては訪れる春の草木が芽吹くための準備期間だと言われています。
樹木がたくましく大きくなるには、厳しい冬をくぐり抜けることが必要なのです。いつも暖かく穏やかな気候だと年輪はできません。人が成長する過程として、若いときには、そういう淋しく厳しい時期を経験することも必要なのです。