自分を磨く 自分を躾ける
学び舎通信 176
自分を磨く
物を磨くときは、表面をこすって汚れを落とし、さらにこすって光らせたり、きれいにしたりします。
しかし、「腕を磨く」と言えば、手入れをして美しくすることではなく、練習したり勉強したりして、上達させることで、「練磨する」とも言います。
自分を磨くためにすることは三つ。
一つ目は、自分のやるべきことに全力で取り組むこと。
二つ目は、積極的に物事を工夫して見事に仕上げること。
三つ目は、人に対して親切にし、人のために尽くすこと。
「自分を磨くのは自分以外にない」ということを、覚悟しなければなりません。自分を律するものは、親や先生や他の誰かではなく、自分自身なのです。
弱さと悪と愚かさとは、互いに関連します。心の強い人は、悪い事はしません。心が弱いから悪い事をするのです。弱さとは一種の悪であって、悪に負けない強い心の持ち主のことを善人と言います。
偉人たちの伝記を読むと、自分の置かれた困難な境遇のなかで、立派に生きていたことがわかります。
人間の偉さは、その人の苦しみに正比例します。最高の人物は、最大の精神の苦行をした人です。
生まれつき具わった天分や素質を嘆くよりも、自分に与えられた能力を極限まで発展させ、実現させることに全力を尽くすことが、大切なことです。
自分を躾ける
躾という字には、身を美しくするという意味があります。躾という漢字は、中国から伝わったものではなく、日本で作られた漢字で、国字と言います。峠や榊や凪なども国字です。これは学校で学んだ知識ではなく、本を読んで知りました。
躾の三原則。
一つ目は、朝、必ず親に「おはようございます」と挨拶する子にすること。
二つ目は、親に呼ばれたら必ず、「はい」とはっきり返事のできる子にすること。
三つ目は、履物を脱いだら必ず揃え、席を立ったら必ず椅子を入れる子にすること。
躾のコツは、親が子どもに手本を示すことです。そうすると、子どもはいつかそれをまねしてやり始めます。そうしたら、必ず褒めてやります。これを一か月続けると、子どもはすっかり変わります。
「躾ができていないのでびしびしやってください」と頼まれたり、「鉛筆の持ち方を教えてやってください」と言われたりすることもありますが、躾は人に任せることではありません。躾は家庭で行う教育です。
より大切なことは、自分で自分を躾けることです。
まず、日常生活のなかでの立ち居振る舞いを、丁寧に、美しく、俊敏にすることです。だらしないと思うのは、挨拶をしない、姿勢が悪い、忘れ物をする、宿題をしない、口を開いて欠伸をする、居眠りをする、字が汚いなど、しゃきっとしていない態度です。
次に、本を読むことです。体を丈夫にするために毎日の運動が欠かせないように、心を豊かにするために毎日の読書が必要です。人生を真剣に正しく生きようと思ったら、たくさんの本を読むことです。
自分を育てる
人間の真の値打ちはどこにあるのでしょうか。勉強がよくできることでしょうか。スポーツで活躍することでしょうか。お金をたくさん稼ぐ事でしょうか。会社の社長になることでしょうか。人間の真の値打ちは、そんなことではありません。
優れた人は、しなければならない時に自分の為すべきことを一生懸命に行い、毎日の心掛けと修養によって磨き出された気品があります。つまり、人間の価値は、熱心さと心の美しさに有ります。
自分で自分自身を育てることが重要です。そのためには、管理されずに、自分が決めたことを実行できる、のびのびと自主的に学べる環境が必要です。
人間は自分から学ぼうとする姿勢がなければ、成長できません。人から教わったものは身につきません。自分が望んで、努力して得たものが自分の血となり肉となります。人から与えられたものは身につきません。自分に合った方法を自分で見出すところまで何度も反復練習して、ようやく身につくのです。自分で考え、自分の努力によって、理解し身につけていくのです。これを自得と言います。
毎時間授業に出席しているからといって、努力家だとは言えません。真面目だと言えるかもしれませんが、それは当たり前のことで、さらに上を目指すには、人知れず自主的に努力することが必要です。 人に言われたことだけをするのではなく、自分の頭で考え、創意工夫して、独自の修業を積み重ねるのです。独特の工夫をして自分自身を鍛えた人は、豊かな心と鋭い感性を持っています。