不言の教 生きること、遊ぶこと、学ぶこと

学び舎通信 185

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不言の教

教える力と教えない力があります。大人は、「自分の知っていることを子どもに教えたい」、「自分の持っている知識を子どもに伝えたい」と思います。教えることで子どもは力をつけていくかもしれません。

しかし、教えないほうが、子どもが強く育つ場合があります。わかるように教えてばかりいると、子どもの自分で理解しようとする力が育ちません。

すぐに理解できないことも、諦めずに考え続けていれば、きっとわかるときが来ます。教室ではわからなかったけれども、家に帰ってもう一度考え直してみるとわかった、ということがあります。教えないところは、自分で考え、学ぼうとします。全てを教えるのではなく、子どもが自分で考えて解決する部分を残しておくと、説明を受けなかったところは、自分の力で学びます。自分で考えてわかったとき、子どもは大きく成長します。教師や親が何から何まで準備してお膳立てをしても、うまくいきません。

あらゆる生きものは、自分で変わる力、自分を変える力を持っています。お節介を焼くことは、子どもの変わろうとする力を弱めてしまいます。

自分の力でたどり着いた道でないと、困難にぶつかったとき、そこで立ち往生してしまいます。

教えないで教える教育を「不言の教」と言います。

生きること、遊ぶこと、学ぶこと

子ども時代にどれだけ自然に触れて遊んだかで、その人の精神的な強さが決まると思います。

今の子どもは、物質的に恵まれていますが、じつに貧しい経験の中で育っているように思います。現代の子どもに必要なのは、一日に15分でいいから、木や土や動物や虫など、人間の作ったものではないものと意識的に触れ合うことです。

そうすると、子どもは自分が生きていることの本質を自ずと考え始めます。自然に対して素直になれば、花や木や野菜を植えて育てたり、昆虫や動物を飼ったりすることに喜びを感じられます。

私の少年の日の思い出は濃い自然の中にあります。例えば、夏の日の川辺で、素足に感じるせせらぎの心地よさ、深緑の木々からヒグラシの蝉しぐれ、岩間からカジカの清涼な歌声、清冽な流れを泳ぐ魚影の素早い動き、川底の清潔な砂利、ぬるぬるした大きな丸い石、角のある新しい石、そういう感触の記憶全部が、かけがえない財産のように思えます。

子どもは、本来、学ぶ能力を持っています。多くの大人は、子どもが本来持っている、喜んで学ぶという能力を抑え込んで、無理に教え込もうとします。 

しかし、そうやって育てられた子どもは、歪んだ頭でっかちの人間になってしまいます。学ぶことを生きることと離して、頭の中へ詰め込まれた子どもは、本当の人生を生きることができなくなります。

子ども時代は、生きることと遊ぶことと学ぶことが重なっています。それを大事にして、思う存分遊びながら学ぶことを応援するのが、大人の役目です。

歩み

カメの足の遅いのを、ウサギがばかにして笑いました。「あなたは足が速くても、私のほうが勝ちますよ」と、カメが言いました。するとウサギは、「そんなこと言ったって口先だけだ、競走しよう。そうすればわかる」と、言いました。カメはちっとも休まず歩き続けました。ウサギは足が速いと思って安心しているものですから、寝てしまいました。決勝点まで来てみると、カメのほうが勝っていました。

生まれつきは良くても、いい加減にやっていてダメになる人はたくさんいるが、真面目で熱心で辛抱強い人は、生まれつきすばしこい人に勝つことがあるという、イソップの「ウサギとカメ」のお話です。

カメは自分のペースを着実に守ったから、到達点に着けました。一人ひとりが違うペースで生きるというのは、人間の本質なのです。一人ひとりのペース、マイペースを大事にする教育が、子どもには必要です。デカルトは「方法序説」という本の中に、「ずいぶんゆっくりとしか歩かない人でも、まっすぐな道をたどっていけば、走ってしかも道をそれる連中の及ばないずっと先の方へ行ける」と書いています。

小林一茶は、「かたつむり そろりそろりと 富士の山」という句を詠んでいます。 競争原理の悪いところは、自己中心に陥って、自分が見えなくなることです。人間は、自分の大きな目標に向かって、自分のペースで自分を花開かせることこそが幸せであると思います。誰かと競争するのではなく、自分らしさを発見するために、自分を成長させるために、学習をするのです。

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学び舎タイムズ編集部

教職歴37年。中学・高校教諭、予備校講師を経て、1996年6月に小さな個人塾を開塾しました。
「将来的に役立つ学力を身につけた子どもを育てたい」という想いから生まれた、こだわりの天然木造教室は保護者からも好評です。

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