新しい自分 十三徳
新しい自分
新しい一年が始まります。
あなたはどんな一年にしたいですか。私はいつも一年の始まりに目標を立てるようにしています。これまでの一年を振り返った上で目標を立てると、自分の行動に迷いが生じることが少なくなります。区切りをつけて新しく出発するきっかけになります。
私が昨年に立てた目標の一つに海外渡航がありました。
目標を立ててすぐに海外プログラムの募集を調べて応募しました。運良く大学が主催する1ヶ月の短期留学に参加することができました。私にとって英語だけで30日以上を過ごすのも、外国で生活するのも初めてのことでした。全く新しい経験は私の価値観を変えるには十分過ぎました。現地で知り合った人々とは今でも交流が続いています。この渡航が縁となって海外シンポジウムにも登壇しました。目標を立てたという、ほんの小さな行動がきっかけで一年前とは違った自分になりました。
前後際断という言葉があります。
「過去にとらわれず、未来を心配せず、この一瞬一瞬に集中して自分の最善を尽くす」という意味です。日本人は古くからこのような考え方を重んじてきました。新年の行事である書き初めにも心機一転して一年の抱負を定めるという意味が込められています。
願わくば毎朝を新年だと思って生きたいものです。就寝前にその日を振り返って反省し、翌朝はまた新しく生まれ変わるのです。一日一日を重ねるたびに、どんどん自分が進化(深化)していきます。それこそが生きることではないでしょうか。
過程を楽しむ
目標を立てたのなら、それに向かって邁進するのが大事ですが、ぜひ過程も楽しみたいものです。アリストテレスは生き方を大きく2つに分けました。1つはキーネーシス的な人生、もう1つはエネルゲイア的な人生。日本語に訳すとそれぞれ動的な人生、現実活動的な人生となります。こう言われてもよくわかりません。簡単に言えば、効率的な生き方と過程を楽しむ生き方です。
1つ目のキーネーシスは例えると登頂を最大の目標にした登山です。山頂到達はできるだけ効率的、かつ速やかに実行されるのが望ましいという考えです。そのためには多少の苦痛・忍耐やメンバーの選択は仕方がありません。2つ目のエネルゲイアでは登ること自体を目的としています。人工物に囲まれた日常とは真逆の、神秘に包まれた自然環境で感性を研ぎ澄ませることもできます。
「効率的な生き方」と「過程を楽しむ生き方」、どちらが正しいということではありません。準備期間と範囲が決められた試験勉強は効率重視に進めるべきですし、逆に日々の学習は学ぶこと自体を楽しむのが理想です。学習が楽しめない場合は目標を小分けにしたり、計画を立てたりすると良いです。ハードルを下げて取り組みやすくしましょう。一つずつ達成・実行することで小さな成長が積み重なります。成長が実感できるとドーパミンが分泌されて意欲が向上します。私は小学生の頃から目標と計画を立てながら勉強していました。毎日新しい自分になる、成長することが楽しくて仕方がありませんでした。
十三徳
日々の生活に規範を定めておくことは、規則正しい生活を送る上でも大きな意義があります。アメリカの哲学者・科学者として有名なフランクリンは25歳の時に十三徳というものを樹立しました。フランクリンは道徳的完成を目標に据えて、良い習慣を作って修得しようとしました。そのために厳選した徳目が13個あったということです。具体的には、節制・沈黙・規律・決断・節約・勤勉・誠実・正義・中庸・清潔・平静・純潔・謙譲です。
例えば、「規律」は「モノはすべて所を定めておくこと、勉強は時間を決めて行うこと」と説明されています。また「勤勉」は「時間を浪費しないこと。常に有益なことを行い、無駄と誘惑はすべて断つこと」と書かれており、参考になることばかりです。
フランクリンは一定期間どれか一つに注意を集中させ、その徳が習得できたら、初めて他の徳に移り、次々に習慣化して身につけようとしました。例えば、最初の一週間は節制(金銭は節約して暴飲暴食しない)に励み、次の週は沈黙(益のないことをあれこれ言わない)を守りました。
行動基準を自分で定めておくことは自制力・意志力を鍛える上で必要不可欠な手順です。誘惑に流されることなく、自分で自分を律することで、意志はより強固なものとなり、集中力が高まります。十三徳はフランクリン本人でも「不敵で困難な計画だった」と述べていますが、早寝早起きや遊びと勉強のけじめをつけることならすぐに実践できるはずです。