厳冬期南アルプス3000m峰 完遂への執念
厳冬期南アルプス3000m峰
この年末年始はずっと山にこもっていました。
場所は長野県と静岡県の境に位置する南アルプスの中心部に位置する塩見岳(3052m)です。
今回は自分が山行のリーダーを務めました。
塩見岳は3000m峰のため風雪が強く、雪の付いた岩稜が続くため厳冬期の登頂は難しいとされています。
自分が所属する部では13年前に登頂を果たしています。それ以降も何度か挑戦していますがいずれも敗退に終わっています。直近では3年前に敗退しています。雪山の難度は天候と積雪によって大きく左右されます。自分ではどうしようもできない力によって影響を受けるのが登山です。こういった状況でいかにして成功を収めるかは、準備にかかっています。
外的な条件・内的な条件
つまり、外的な条件(天候・積雪・時間・登攀ルート)と内的な条件(体力・判断・技術・経験)のうち、内的な条件を充実させていくことにしたのです。外的な条件は自分で変えたりできませんから、少しでも山行を成功に導くには準備を万端にするより他ありませんでした。
技術
すべきことはたくさんありました。まずは隊の技術向上です。自分の部は山スキーに傾倒しており、冬山のロープワーク技術が未熟でした。安全に下山するためのロープワークは毎年訓練していますが、登頂するための登攀技術は皆無でした。情報収集から始めました。書物だけでなくインターネットに公開されている雪上技術の資料も大いに参考にしました。それらの技術が実際に使えるかどうかを下界訓練で確かめ、練習しました。
経験
岩と雪ミックス登山の練習、雪上技術の習得として11月末に北アルプスの常念岳、12月中旬に富士山に行きました。雪上技術に関しては自分が求めていた段階に達しませんでしたが、一通りのことはしました。暴風・突風や低温(氷点下20℃)など厳冬期における高所の天候に慣れることが出来ました。
判断
もっとも重要なのが進退判断です。隊の体力や天候・積雪状況、時間などすべてを考慮して最善の判断を下す必要があります。どこでワカンからアイゼンに替えて、どのタイミングでゴーグルをつけるか。ラッセルは何分おきに交代させるか。岩稜帯はどのような編成で行動するか。また、機動力を上げるためにどれくらいの量の荷物をどこにデポするか。
自分が考えていることを隊全体で共有することも大切です。私は過去の山行記録に目を通し、なぜ登頂できたのか?あるいは、なぜ敗退に終わったのか?その理由を考えました。そうやって導き出した行動方針(登頂に向けた最善策)をとりまとめてメンバーで共有し、“認識の共通化”を図りました。
山行直前の私はあらゆる天候・積雪パターンをシミュレートしてどのような状況でも対応できるようにイメージトレーニングを繰り返していました。入試に臨む受験生と似たようなことをしていましたが、実際の山行で非常に役立ちました。
体力
予備日2日(悪天時停滞用)を設けたため、全部で6日分の食糧・燃料、登攀用具類を担ぐ必要がありました。さらに冬場はラッセルが必要ですから相応の体力が必要です。私の場合、下半身は充分ですので、上半身を鍛えることにします。毎日、懸垂100回以上をこなして丈夫な体を作りました。
完遂への執念
私の部では予定しているルート全てを踏破することを完遂と呼んでいます。
登頂(成功)を強く意識した登山は自分のポリシー(主義)に反していましたが、いつ振り返っても悔いのない山行であることに違いはありませんでした。部にとっても登攀要素の強い厳冬期縦走という新たな分野を開拓するきっかけになったことはメリットがありますし、厳冬期アルプス3000m峰に立った経験は今後も自らの支えになると感じました。
後日、OBよりリベンジ期待の声がかかっていたことを知って、今回の登頂・完遂がますます誇らしく思われました。
今回はコンディションにも助けられ、4日間かけて完遂し無事に戻ってきました。事前に入念なシミュレーションをしたおかげで、幕営地や行動時間の設定もこの山域を縦走する上で最善の選択ができました。執念に助けられたとも思っています。 2018年の初日の出は2802mの小河内岳山頂から拝ませてもらいました。富士山の南方、雲海から昇る朝日に赤く染まった峰々が浮かび上がった美しい元旦でした。