心の豊かな人 日本一過酷なアドベンチャーレース

学び舎通信 125

目次

やさしい人

英語にgentleman(ジェントルマン)という言葉があります。gentleには、「優しい、思いやりのある、柔和な、穏やかな、静かな」という意味があります。つまりgentlemanは「やさしい人」のことなのです。

知識がどんなにあっても、やさしい感情を持っていない人は、立派な人間とは言えません。

やさしい感情を持つ人とは、物事をよく感じる心を持っている人のことです。神経質で、物事にすぐ感じても、いらいらしている人がいます。そんな人は、やさしい心を持っていない場合が多いものです。そんな人は、正しく感じる心を持った人ではなく、ただ、びくびくしているだけなのです。

ですから、みなさんは正しく感じるということを学ばなければならないのです。

心の豊かな人

心の豊かな人になってもらいたいと思っています。心の豊かさのことを、教養と言います。手元の辞書には、教養の意味を「広い知識から得た心の豊かさ」と書いてあります。

心を豊かにするためには、広い知識を身につける必要があります。そして、広い知識を身につけるためには、一生懸命勉強する必要があるのです。

みなさんの目指すことは、しっかり勉強して、広い知識を身につけ、心の豊かな人間になることです。

みなさんには一生懸命勉強してもらいたい。テストで良い点数を取るため、成績を上げるため、志望校に合格するためでもいい。でも、勉強するほんとうの目的は、「心の豊かな人になる」ため、ということを覚えておいてほしいと思います。

胆力のある人

胆力の胆は、心、特に肝っ玉とか度胸とか勇気という意味です。つまり、胆力とは、驚いたり、恐れたりしない、強い気持ちのことです。

危機にあったときに、まず「ふだん通りのこと」ができるかどうか自己点検します。危なくなったときや事態が悪くなったときに、まずご飯を食べるとか、いつもしていることをふだん通りにできるかどうか試してみます。別にこれは「次にいつご飯が食べられるかわからないから、食べだめをしておく」ということではありません。悪い状況のときでも、落ち着いた気持ちでいられることを確かめるためにするのです。

状況がじたばたしてきたときに、ほとんどの人は状況といっしょにじたばたしてしまいます。しかし、じたばたしたところで状況はよくなりません。そんなとき、「ふだん通りのこと」をするためには、あせったり、あわてたりしてさわぐよりも、はるかに多くの心配りが必要です。

悪い事態になったとき、「きゃー、たいへんよー!」と言ってじたばたしていると、人間の能力はどんどん低下します。そんなときは、むしろ危機的な状況を積極的に利用して、自分の「驚いたり、恐れたりしない能力」を点検し、鍛えるといいと思います。まわりがみんなじたばたしているときに、胆力のある人は、ふだん通りのことができます。

自分を鍛える

頭脳・身体・精神は、鍛えれば強くなります。毎日の生活の中で、頭と体と心を鍛えて強くするのだという気持ちを持っておくといいと思います。

作家の村上春樹さんは『1Q84』という小説に、

「ものごとの成り立ちを理解しないまま、無知な人間として死にたくなかった。自分に試せるだけのことは試してみたい。もし駄目ならそこであきらめればいい。でも最後の最後まで、やれるだけのことはやる。それが私の生き方なのだ」と書いています。

この世に完全な人間はいません。わたしたちは、迷ったり、誘惑されたり、失敗したりしながら生きています。知らないことが多く、気のつかないこともたくさんあります。やってみなければ、本当のことがわからないし、失敗してみないと肝心なところを理解することができません。そんな不完全なわたしたちですが、がんばることはできます。最後の最後まで、やれるだけのことをやることはできるのです。

希望のあるところには必ず試練がある

何をするにしても、特別な才能は必要ありません。時間をかけて、段階を踏んで、準備やトレーニングを積めば、誰でも最初は困難だと思えたチャレンジに成功することができます。

頑張っていれば、必ず力が伸びます。頑張りの積み重ねが、力を大きく、強くするのです。

希望のあるところには必ず試練があります。困難に打ち勝つ強い心があれば、希望を実現できます。

日本一過酷なアドベンチャーレース

「トランスジャパンアルプスレース(TJAR)」という日本で最も過酷といわれる山岳レースがあります。富山湾からスタートし、北アルプス(飛騨山脈)・中央アルプス(木曽山脈)・南アルプス(赤石山脈)を縦走し、駿河湾に至るまでの415kmを8日以内に走り切ります。その間、選手たちは剱岳、立山、槍ヶ岳、木曽駒ヶ岳、仙丈ヶ岳、聖岳といった、3,000m級の山々を昼も夜もなく進み続けます。選手たちが上り下りする累積標高差は、富士登山の7回分に相当する27,000mになります。

「山にいると心が洗われる」という岩瀬幹生さん(57歳)は、20年ほど前に、日本海から日本アルプスを経て太平洋まで走るという計画を立てました。通常のコースタイムで25~30時間を要する行程を16~18時間でこなしていくと、10日前後で完走できると見通しがつきました。1995年8月、岩瀬さんは一人で計画を実行に移しました。ツェルト(簡易テント)を含む10kgの登山道具一式を担いで、10日間で歩きとおしました。それまで誰も試みたことのないチャレンジでした。「鍛え抜かれた体と強靭な精神力を持つ若者ならば、5日から7日で十分踏破できるだろう」と考え、2002年、第1回トランスジャパンアルプスレースを立ち上げました。

「できる」と思って、やる

参加選手は、20時間以上の山岳トレイルコースを55%以下のコースタイムで走り切れる全身持久力、フルマラソンを3時間20分以内で完走できる体力、山の技術力が必要です。2012年、第6回TJARの選考会を通過し、スタートラインに立ったのは、28名。レース途中で8名がリタイヤ。1位でゴールしたのは、山岳救助隊員で遭難者対策を任務としている望月さん(34歳)。記録は5日間6時間24分。

選手のひとり阪田さん(32歳)は、小学生のときから運動が大嫌いで、中学生のとき100m走は本気でやって20秒を切れない少年でした。部活動はサッカー部でしたが、「がっちりベンチを守っていた」と言います。それが26歳のときに職場の先輩に誘われて出た10kmのレースで完走します。そのときの達成感が快感となり、フルマラソン、富士登山競争へ参加するようになりました。過酷なレースほどより大きな達成感を味わうことができると言います。阪田さんは“チャレンジ”について、

「意外にやったらできる。食わず嫌いって多いんじゃないですか。人間、何が絶対どうだなんてわからないですよ。なんの才能があるかわからない。自分もレース前から無理だなんて思わない。『できる』と思ってやっている。『できる』と思わないと、いつまでたってもできない。なんでもチャレンジしてみたらええやないですか」と語っています。

福山さん(33歳)は「『目標を持って、その実現を想い続けて努力していればいつか叶う』ということを身をもって実践できたので、子どもが大きくなったときに自信を持ってそう言いたい」と言います。

困難に挑戦し、乗り越える

8日間のレースが終わっても、たった一人で走り続けている選手がいました。ゆっくりとした足取りで走っているのは、岩崎さん(45歳)でした。小学生の時は、体育が苦手で、引っ込み思案。言いたいことも満足に言えない内気な少年でした。中学校では、卓球部に所属していましたが、万年補欠。マラソンを始めるようになったのは、会社の駅伝大会でした。その後、体を鍛え、フルマラソンや山岳レースなどに合計200回以上出場し、ついには国体山岳縦走競技選手に選ばれるようになったのでした。

「好きなんです。自然の中で体を動かすのも、簡単に出来ないことをするのも。小さい頃からそういうことをしたいと思っていてなかなかチャレンジができなかった。山は晴れた日とかは本当に絶景だし、出会う人や動物すべてに感動できる」と言います。

休日のほとんどをTJARのためにトレーニングをしている岩崎さんは、「一人一人の心は弱い。困難なことに出会ったとき、『こんなもんでいいや』とつい妥協してしまう。でも、私は志を持って困難に挑戦していきたい」と言います。

「なぜ、レースが終わった今、走るのですか?」という質問に、

「大会は終わっても、レース自体はまだ自分の中では続いている。自分にとって困難だと思えることに挑戦してそれを乗り越えれば、何かそこから得られるものがあるんじゃないかって」と答えました。

ただでさえやり遂げることが困難な挑戦に挑んでいるのに、大会が終わってもただ一人で頑張り続けていることに感激し、応援に駆けつけた人もいました。岩崎さんは、8日間23時間23分という記録でゴールゲートをくぐりました。

(年齢は、2012年8月大会当時のものです)

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学び舎タイムズ編集部

教職歴37年。中学・高校教諭、予備校講師を経て、1996年6月に小さな個人塾を開塾しました。
「将来的に役立つ学力を身につけた子どもを育てたい」という想いから生まれた、こだわりの天然木造教室は保護者からも好評です。

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