善く生きるための5つのヒント

学び舎通信 134

目次

1 本を読む

評論家だった小林秀雄さんは、高校生のときに「妙な読書法」を実行していました。

「学校の行き帰りに電車の中で読む本、教室の中でひそかに読む本、家で読む本、という具合に区別して、いつも数種の本を並行して読み進んでいた」そうです。知識欲や好奇心が並外れて旺盛であった小林さんは、一つの本を読み終わってから他の本を開くというような悠長なことができませんでした。

若い人から、「何を読んだらいいか」と訊ねられると、小林さんはいつも「トルストイを読みたまえ」と答えていました。すると必ず「その他には何を読んだらいいか」と言われました。「他に何にも読む必要はない、だまされたと思って『戦争と平和』を読みたまえ」と言いました。「嘗て僕の忠告を実行してくれた人がない。実に悲しむべきことである。あんまり本が多過ぎる、だからこそトルストイを、トルストイだけを読みたまえ」と勧めました。

トルストイ(1828-1910)は貴族の出身でしたが、貧しい人や社会的に弱い人の立場に立って、作品を発表したロシアの小説家です。トルストイの書いた「戦争と平和」は岩波文庫版で全6冊です。1冊がおよそ500ページですから、約3,000ページの長編小説です。

「戦争と平和」(岩波文庫:藤沼貴訳)の5冊目の510ページにはこんな文章があります。「人間は運動のなかにあるとき、かならずその運動の目的を自分のために考え出そうとする。千キロ歩くためには、人間はその千キロの向こうに何かいいものがある、と考えずにはいられない。運動する力を持つためには、希望の地を思い描くことが必要だ」。

みなさんがこれを読んだとき、“運動”を“勉強”に置き換えて「勉強する力を持つためには、希望の地を思い描くことが必要だ」と思うのではないでしょうか。このように、本を読むことで、生きるためのヒントが得られます。本の中には、先人の知恵や、苦労した人の考え方などが書かれているからです。

また、本を読んでいると、深く考えられるようになります。反対に、本を読まなくなると、物事を深く掘り下げて考えることができなくなると思います。

子どもの頃に、本に親しむ習慣がつけておくとよいと思います。本を読む楽しみを身につけることができたら、人生を生き抜く希望がより多く見つけられるようになると思います。

2 辞書を引く

本や新聞を読んでいると、わからない言葉や理解があやふやな言葉に出会います。そんなとき、すぐ辞書を引いて言葉の意味を調べます。

こまめに辞書を引いていると、言葉の正しい理解や使い方を習得することができます。また、めんどうがらずに辞書で言葉の意味を調べていると、語彙が豊かになります。

辞書引きの習慣をつけるために、国語辞典や英和辞典などを各部屋に置いておきます。そうすれば、意味のわからない言葉があったときに、すぐ引くことができます。大人用の辞書は子どもには難しいので、小学生は小学生用の辞書、中学生は中学生用の辞書を使ってください。親がこまめに辞書を引いていると、子どもに辞書引きの習慣がつきます。

3 自立を考える 

子どもに「勉強しろ、宿題をしろ」と、口うるさく言ったりするのは、いいことではありません。

「自分の人生は自分で決めればいい。ただ、勉強していなければ、自分のやりたいことができなくなってしまう」という現実を教えます。 

「勉強」よりも重視したほうがいいのは、「自分のことは責任を持って自分でやる」ということです。「将来、大人になったとき、自立した個人としてやっていけるようになること」を教えます。

4 教育を考える

フィンランドの教育改革

フィンランドの教育が話題になりました。そのフィンランドでは、かつて習熟度別学習が行われていました。クラス分けをするためのテストを行い、子どもをレベル別に分けて、同じレベルの子どもごとにクラスを作り、教えていたのです。

ところが、この方法では、勉強のできる子どももできない子どもも、あまり学力が伸びませんでした。

 現在、フィンランドの教師も生徒も、生徒間の優劣にあまり関心はなく、「子ども一人ひとりが主体的に学べているか」を重視するようになりました。そうすると、子どもたちの学力がぐんと伸びたのです。

イギリスの教育改革

1980年代イギリスでは、全国学力統一テストがあり、その結果を学校別ランキングとして公表しました。学校間の競争を煽ることで、成果を上げようとする政策がとられたのです。

学校にとって、全国学力テストの結果は死活問題となり、テスト対策中心の教育が行われました。テストに関係のない教科は時間数が減らされ、学習の仕方もテストの問題を解くためのテクニックを教えるようになりました。高い点数のとれる生徒がよい生徒、点数を上げることのできる教師がよい教師というゆがんだ状況を生むことになりました。

「テストのための指導」は教育ではない

学習内容を理解しているどうかを見るためのテストは必要だと思います。しかし、他の生徒と比較し、順番をつけるためのテストは必要ではありません。

フィンランドの成功、イギリスの失敗からも明らかなように、テストで序列化を行うことは、点数をとるための競争を激化させます。テストで競争を煽り、学力強化を図ったのですが、その結果は芳しくありませんでした。そして、子どもたちは、「真の学力」、「社会での自立に役立つ力」を養うことができませんでした。

日本でも、試験の前に勉強してよい点数をとることが、勉強の大きなモチベーションとなっています。

しかし、これはテストのための勉強であって、本来の学びではありません。知識を詰め込み、点数を競争させることは、教育ではありません。「学ぶ楽しさや、学ぶ方法を学ばせること」が、教育なのです。

5 逆境を生きる

一生懸命頑張っているのだけれど、思うようにならないときがあります。そんな逆境にあるとき、とても幸せなことなのだと思うといいです。なぜなら、それは自分自身を育てるチャンスなのですから。

逆境を生き抜くことで、人は強くなれます。

逆境を生き抜いた人とそうでない人では、人生の豊かさが全然違います。挫折することによって、人のため、社会のためになるようなことができるようになります。自分の苦い経験から得た知恵で、同じようにつまずいている人を助けることができます。

人は逆境に置かれると物事を深く考えることができるようになります。むしろ、人が成長するために逆境はあると言ってもいいと思います。そう捉えることができれば、逆境とは実にすばらしい「縁」かもしれません。

「私でも人の役に立つことができる」と考えて、努力することによって、強くなれます。自分がひとまわり大きくなるためのチャンスだと思って、逆境を乗り切るといいのです。

待つことができるというのは大きな勇気です。物事には、いいときの“流れ”、悪いときの “流れ”があります。これに抵抗してはダメだと思います。無理して慌てても、いい結果は得られません。たとえ逆境の中だろうと、腐らずいれば必ずチャンスはやってきます。思い通りにいかなくても、気が滅入って元気を失うことなく、努力を続けるのです。“悪い流れ”の後には、必ず“いい流れ”が来ます。そうした機会をじっくり待てるということも、大きな勇気だと思います。

「いい人生を送るためのカギは逆境にある」ということです。

逆境をどう生き抜くかで、その後の人生は決まると言ってもいいでしょう。歴史を振り返ってみると本当に伸びている人、歴史に名を残す人物は、逆境に抗うことなく、むしろ従いながら生きています。そしてもがき苦しみながらも、そこで何かを掴んでいます。努力をして進歩の種を蒔いているのです。逆境を心して乗り切ることで、人は本当に伸びることができます。

逆境にある人ほど物事を深く考え、多くの工夫ができるようになります。工夫をすることで人は豊かになっていきますから、幸せなことばかり続く人よりも、むしろ逆境の多い人生を送る方のほうが人間性は高まると言えます。

どんなときでも一生懸命生きることで、人は成長できるのだと思います。

「苦しいとき、辛いとき、悲しいとき、私たちは自分の殻に閉じこもってしまいがちです。でも、それでは希望を見出すことはできません。

目を外に向けてごらんなさい。この広い世界には60億あまりの人たちがいて、誰もが何かしらの苦しみを抱えて生きています。

あなたと同じように本当に辛い体験をしている人もこの世界にはたくさんいます。そして、たくさんの人が今日も、苦しくても、辛くても、望みを捨てずに前を向いて歩いて行こうと努力している。そのことを覚えていてください」

と、ダライ・ラマ14世は言います。(2011年「いのちの言葉」より)

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学び舎タイムズ編集部

教職歴37年。中学・高校教諭、予備校講師を経て、1996年6月に小さな個人塾を開塾しました。
「将来的に役立つ学力を身につけた子どもを育てたい」という想いから生まれた、こだわりの天然木造教室は保護者からも好評です。

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