生きるために大切な力
学び舎通信 149
「昨日の自分」と「今日の自分」
英語のroutineには、「決まり切った仕事、いつもの手順」という意味があります。この言葉はフランス語の「踏み固められた道」という語に由来します。
野球のイチロー選手は、毎日同じ時間に同じことをします。練習場にはいつも同じ時間に同じ道順で通います。また、自分の技術の向上にしか興味がないから、他の選手の成績には関心がありません。
テニスのジョコビッチ選手も、同じ生活習慣を守っています。毎晩午後11時から12時までの間に寝るようにしています。一日16時間起きていて、そのうち14時間はテニスの練習や食事に使っています。
一流のアスリートたちは、生まれつきの才能に加えて、毎日自分で決めたトレーニングをしています。
「ルーティン」に徹することで、「昨日の自分」と「今日の自分」を比較することができます。能力は、他人と比較するものではありません。比べてよいのは、「昨日の自分」とだけです。
良い生活習慣を続けていると、「昨日の自分」と比べて、「今日の自分」が成長していることに気づくはずです。「昨日よりも今日、今日よりも明日」といつも「過去最高の自分」になることを目指して生きていくとよいです。そうやって成長していけば、素晴らしい人になれると思います。
生きるために大切な力
一つ目は、自制心。
英語でself-control(セルフコントロール)とも言います。自分で自分の欲望や感情を抑える力です。
二つ目は、やり抜く力。
やり抜く力とは、遠い先にあるゴール(目標)に向けて、興味を失わず、努力し続けることができる力です。
この二つの力は、鍛えることで強くなります。
自制心は、筋肉のように鍛えるとよいと言われています。筋肉を鍛えるときに重要なことは、継続と反復です。腹筋や腕立て伏せのように、自制心も何かを繰り返し続けて行うことで向上します。
たとえば、私が「早寝早起きをするように」と言うと、それを忠実に実行した子どもは成績の向上が見られます。もちろん「早寝早起き」が直接、成績に影響を与えたわけではありません。「早寝早起き」というような意識しないとしづらいことを継続的に行ったことで、子どもの自制心が鍛えられ、成績に良い影響を及ぼしたのです。
また、心理学の分野でも、「細かく計画を立て、記録し、達成度を自分で管理する」ことが自制心を鍛えるのに有効であると多数の研究で報告されています。これも、学び舎で実行している中学生たちは、成果をあげています。
「自分のもともとの能力は生まれつきのものではなくて、努力によって伸ばすことができる」ということを信じる子どもは、「やり抜く力」が強いです。「やればできる」と信じている子どもたちは、努力することで素晴らしい成績をとっています。
山の頂上には何があるのか
山の頂上には、ものの見方を変えてくれる何かがあります。町にいると周りしか見えません。しかし、山の頂上にたどり着くと、新しい世界が見えてきます。遠くの山々が折り重なって見えます。海が見えるときもあります。平野や町も見えます。空も山の頂上から見ると大きくて広いのです。
登山家の田部井淳子さんは、2011年3月11日の東日本大震災で被災した東北の高校生たちを富士登山に招待する活動を2012年の夏から始めました。
田部井さんは、「次の世代の人たちに元気になってもらいたい。苦しいけれど、一歩一歩登っていけば必ず頂上に辿り着けるということを体で感じてもらいたい」と願っています。
体験した高校生たちは次のような感想文を書きました。
「大震災のあと、自分の目標もなく、イライラして、どうしていいのかもわからなかったけれど、あんな高いところまで、自分の足で登れたことがものすごく励みになって、自分の中に目標ができ、あきらめないことが大事だと感じられた」
「一歩一歩が、いかに大事かがわかった」
「富士山の頂上から雲海の素晴らしい風景を見て、広い気持ちになり、自分の悩みが小さいっていうことがわかった」
田部井さんは、「自分の体で日本の美しい自然を体感する。ぜひ自分の足で山を登り、川を渡り、汗をかくということ体験していただきたい」と言います。