学習のメカニズム・集中力を高める方法

学び舎通信 68

目次

学習のメカニズム

脳は何かを達成するたびに、どんどん強くなる

一生懸命考えていた問題がやっと解けた。その時のうれしさを思い出してみてください。

「やった!できた!」

この時、みなさんの脳の中では「ドーパミン」と呼ばれる物質が分泌(細胞が特殊な液を作り出してそれを外へ出すはたらき)されています。

ドーパミンは神経伝達物質のひとつで、「快感(こころよい感じ。いい気持ち)」を生み出す脳内物質として知られています。この分泌が多ければ多いほど、人間は大きな快感を覚えたり、喜びを感じたりすることが分かっています。

したがって、人間の脳はドーパミンが分泌された時、どんな行動をとったか克明(細かいところまでじゅうぶんに明らかにするようす)に記憶し、ことあるごとにその快感を再現しようとします。そして、もっと効率的にドーパミンを分泌させるため、つまり快感を得るために、脳の中では神経細胞(ニューロン)がつなぎかわり、新しい神経回路網(シナプス)が生まれます。そのため、快感を生み出す行動が次第にくせになり、2回、3回と繰り返し続けていくたびに、その行動が上達していく。これが「学習」のメカニズム(仕組み)です。

「強制」ではなく「喜び」を感じさせる

「勉強しなくちゃだめでしょ」「何してるの!そんなにぐずぐずして…」

こんな言葉を言われたこと(もしくは言ったこと)はありませんか?親や先生にこう言われて勉強している子どもに、ドーパミンによる神経回路の強化は期待できません。しかたなく、いやいや勉強しているだけだからです。

勉強がうまくいかず成績が上がらない子どもは、たいてい「強化学習のサイクル(同じ動きをくり返すこと。ここでは、「やった!できた!」→ドーパミンを分泌→快感・喜び→脳内でニューロンがつなぎかわり、新しいシナプスが生まれる→くり返し練習して強化される、こと)」が成立していません。

そもそも、脳の働きの本質(そのもの本来の独自の性質)は「自発性(自分で考え、自分から進んですること)」です。脳に何かを強制することは、とても難しいのです。脳は肯定的(そのとおりだと認めたり、それでよいと賛成したりすること)な期待やほめられた体験を、とてもよいものとして受け止めます。だからこそ「教育過程においては基本的に、ほめることが大切」と言われているわけです。子どもを叱ったからといって、勉強をするようになることはまずありません。叱られた人間の脳はやる気をなくしてしまうのです。

もともと人間のやる気(モチベーション)というのは、その人の好きなことや、人からほめられた経験や、人から認められるといったポジティブ(肯定的。積極的)なものからしか生まれません。だから、いわゆる「ほめて伸ばす」という教育法は、強化学習の観点(物を見たり考えたりする場合のよりどころとなる立場)から見れば正しいやり方といえるのです。

苦しみを突き抜けた時、脳は強くなる

注意しなければならないのは「できることを続けても脳は喜ばない」ということです。ドーパミンは、できると分かっていることを成し遂げても放出(勢いよく出すこと)されません。できるかどうか分からないことに、一生懸命になってぶつかり、そして苦労の末それを達成した時に大量に分泌されます。「えっ、私ってこんなこともできたの?」と意外性(思いがけないこと。予想外)が強ければ強いほど、喜びが大きくなるしくみなのです。

できることをやっても脳は喜びません。できそうもないことができたとき脳は大きな喜びを感じます。できないことをできるようになるには苦しい思いをします。しかし、この「苦しい」状況(物事の、時とともに変わってゆくその時々のようす)を何とかして突き抜けることは、とても重要なことです。苦しみを突き抜けた時、脳は強くなるのです。

余談(本筋からそれた話)ですが、毎年大晦日にNHK交響楽団によるベートーヴェン(ベートーベン)の『交響曲第9番』が放映されます。この曲は、日本人に『第九』として親しまれています。

ベートーヴェンは生涯に9つの交響曲を作曲しましたが、最後のこの『第九』をつくったときには、ほとんど耳が聞こえなくなっていました。音楽家にとって耳が不自由になるということは、最大の受苦です。しかし、ベートーヴェンはその試練に打ち勝ち、歓喜の歌『第九交響曲』を作曲したのです。

『悩みを突き抜けて歓喜に到れ!』

「タイムプレッシャー」で集中力を高める

脳科学者の茂木健一郎さんは、中学生の頃、「タイムプレッシャー」を意識して勉強していました。数学の問題を解くにしても、国語の文章問題を考えるにしても、時間を計ってなるべく短い時間で終わらせる。そして、次にやる時は「あと3分早く終わらせよう」と、少しずつ制限時間を短くしていきました。茂木さんはこの方法で「高い『集中力』が身についた」と言います。

勉強が苦手な人の特徴に、解けない問題をだらだらと考え続けてしまうということがあります。

時間内に解けない問題があったら一度あきらめます。そのかわり、取り組んでいるあいだはものすごく集中した状態で考えるのです。このような「タイムプレッシャー」のもとで勉強を続けているうちに、勉強する回路が強化されるのです。

この方法は他人から強制された勉強では身につきません。自分で工夫しながら、感覚を身につけていくことが必要なのです。

プレッシャーを乗り越えようとする時、「なにくそ!」と、力を振り絞って自分を奮い立たせることが大切です。根性、つまり精神的な強さが必要なのです。

「鶴の恩返し」勉強法

「鶴の恩返し」の物語を思い出してください。自分を助けてくれた人のために、鶴が全身全霊(からだも心もすべて)を傾けてすばらしい反物(和服の衣料にする織物。呉服)を仕上げる場面です。鶴は「決して私が織っているところを見ないでください」と言って、嘴で自分のからだから羽を抜き取り、反物を織ります。

その鶴のように勉強するのです。鶴は「速く織ろう。たくさん織ろう」と思って、反物を織ることに夢中(他のことは忘れてそのことに熱中すること)になっていました。

目で読みながら、手で書きながら、声に出しながら、まさに全身を使って覚えていくのです。この時、目の前の教科書や問題集以外は何も見えない、雑音も聞こえないというぐらいに集中するのです。

集中力は、速さ、分量、没入感の要素から生まれます。この3つの要素を理解することで、誰でも集中力を磨くことができます。

3つの要素について説明します。

まずは「速さ」です。

「タイムプレッシャー」を常に意識することがポイント(要点。物事の大事な所)です。制限時間をもうけて、自分がこれ以上速くできないという限界を超えようと努力してください。そして、限界を少しずつ上げていく、これを徹底的に繰り返すのです。毎日少しずつ、スピードを上げていくことで習慣化させることが大切です。

次に「分量」です。

これは学習の作業量を多くする、という意味です。集中力を持続させるには、「ずっと何か作業している」状態をつくることが必要なのです。ボーッと考えているのではなく、とにかく忙しくやる。スピードを上げながら、制限時間の中でできる分量を増やしていくのです。問題量を増やすのです。

3つめは、「没入感」です。

集中力を発揮して勉強している時の自分がどんな状態にあるか、思い出してみてください。勉強にのめりこみ、勉強と自分が一体になる感覚はありませんか。  東京藝術大学大学院映像研究科教授の佐藤雅彦さんが、人間のある状況において、生き生きと熱中している幸せな状態のことを「ステュディオス(studious)」と表現しています。没入感とはまさにこの「ステュディオス」な状態のことをさしています。夢中になってのめりこめるような楽しいこと、ステュディオス状態になれる対象(目標となるもの。めあて)を持っている人は、自分の人生を充実(内容がゆたかで、じゅうぶんなこと)させる方法を知っている人かもしれません。

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学び舎タイムズ編集部

教職歴37年。中学・高校教諭、予備校講師を経て、1996年6月に小さな個人塾を開塾しました。
「将来的に役立つ学力を身につけた子どもを育てたい」という想いから生まれた、こだわりの天然木造教室は保護者からも好評です。

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