息子の巣立ち
学び舎通信 144
巣立ち
子どもを産み、育て、子どもが巣立っていく。
親が一生堅命に子どもを育てることで、この自然の流れは上手くいくと思います。約20年ともに暮らしてきた息子が、3月末から東京で一人暮らしを始めました。巣立ちのときが訪れました。
息子は、杉並区にある学生専用のアパートを借りています。京王井の頭線の久我山駅から10分ほど歩いた所に、そのアパートはあります。大家さんは先祖代々農業を営んでおり、アパートのすぐそばには農地があります。その畑の向こうに東京大空襲を生き延びたケヤキやイチョウの大木が立っています。ケヤキの木の幹にコゲラの巣穴を見つけました。こぢんまりとした林の彼方には、大きな空が広がっています。美しく整った静かな町です。ここが東京かと思うほど森閑としていています。
アパートから駒場にある大学まで電車に乗れば、30分ほどで行くことができます。また、歩いて3分の所に図書館もあり、自転車で少し走れば素敵な公園もあります。
大学は3月30日に始まりました。大学には高校時代の友人もいます。新しい友達もでき、大学の勉強も楽しいそうです。クラブ活動は、ワンダーフォーゲル部(山岳部)に入部を決めました。
必要なモノは何か
人ひとりが生きていくためには、何が必要なのかをもっと真剣に考えたほうがいいと思います。「みんなが持っているから、自分も持たなければならない」ということはありません。私は息子に、「みんなが持っている」ゲーム機の代わりにたくさんの本をプレゼントしてきました。
大学の合格発表があった3月10日の翌日から、引越す準備を始めました。一人きりの生活ですが、所帯道具は必要です。当初は今まで使っていたものを持って行くつもりだったのですが、運送費がべらぼうに高く、新しく買い揃えたほうが安くつくので、必要なものを購入することにしました。
購入計画を立てるとき、息子は「できるだけ少ないモノで生活したい」と言いました。「掃除は雑巾一枚あればできるので掃除機は要らない」と言って、掃除機を買う代わりにバケツを1つ買いました。「自分で料理するから電子レンジやトースターは要らない」と言って、キャンプ用の鍋セットを持って行きました。そうやって新しく購入するモノを絞っていきました。ガスコンロや冷蔵庫は、アパートに備え付けられています。テレビは、見る習慣がないので不要です。結局、新しく買った電化製品は、洗濯機とコタツとパソコンとデスクライトの4つでした。
家具は、「ベッドは要らない。勉強するための机と本棚があればいい」と息子は言いました。無印良品で、無垢のオーク材で作られた机を購入しました。息子が12年間使っていた机は、現在、私の仕事机にしています。
自立する力
自立とは、自分ひとりの力でやっていくこと。
子どもを育てるということは、自分で工夫しながら学んでいく力を、育てることだと思います。
3月28日、私と息子はリュックを担いで東京に向かいました。引っ越しの片付けがほぼ終わり、ガスコンロで米を炊き、野菜や魚を料理して食べました。6畳の部屋にあるのは、机と本棚とコタツだけです。私は、息子の蒲団の横に登山用のテントマットを敷き寝袋にくるまりました。
翌朝、東の窓から差し込む朝日とシジュウカラの囀る声で目が覚めました。朝食は、牛乳を鍋に入れガスコンロで温めたホットミルクとパン、それにバナナとミカンを食べました。息子が洗濯と部屋の整理をしている間に、私はリュックを背負って駅前のスーパーに日用品を買いに行きました。
私は登山が好きで、息子が小さい頃から山に連れて行きテント生活をしました。東京に持って行ったキャンプ用鍋セットには、米炊き用の鍋・片手鍋・大鍋・フライパン・ステンレスの笊があり、これらを使って料理をします。昼は学生食堂で食べ、朝と夜はアパートで自炊をして、家計簿を付けているそうです。炊事・洗濯・掃除・買いものを、工夫しながら東京での一人暮らしを楽しんでいるそうです。
私は息子に勉強の方法やテクニックを教えたことがなく、家で一緒に本を読み、休日に一緒に山を歩きました。東京大学の受験勉強もひとりでしていました。毎月、東京から学び舎の子どもたちにEメールが届きます。それを学び舎通信に載せていきます。