学力が向上する3つの条件
学び舎通信 73
発芽の条件
学び舎の周りにたくさんの花や野菜の種を植えました。その種が芽を出しました。緑色の小さな葉っぱを元気いっぱいぱっと土の上に広げています。
小学5年生の理科で「発芽の条件」を学びます。
発芽には、①水、②適当な温度、③空気(酸素)が必要です。この3つの条件(あることが成立するうえで必要なことがら)のうちひとつでも欠けていれば、種は発芽しません。
3つの条件が揃うと、小さな種は、芽生え、生長し、花を咲かせるのです。不思議ですね。小さな種のどこにそんな大きなエネルギー(活動するための力)が蓄えられているのでしょうか。
みなさんも小さな種です。からだの中に大きなエネルギーが蓄えられているのです。
では、そのエネルギーの出し方、みなさんの「発芽の条件」をお話しましょう。
学力向上の条件
学力(勉強して自分の身につけた能力)を高めるためにも条件があります。
① 規則正しい生活
② 毎日の勉強
③ 安定した気持ち
この3つが学力向上の条件です。
体の中のエネルギーを出すためには、この3つの条件が必要です。ひとつでも欠けていれば、体の中にある力は発揮できません。
学び舎からトップ校に進学して学年トップの成績を上げている人たちには、この3つの条件が備わっています。
規則正しい生活で、脳に良い流れをつくる
まずは起床です。
いつも同じ時間に目覚めるようにします。
起床や就寝、食事を決まった時間にすることで、
規則正しい生活を送るのが良いのです。
不規則な生活は脳にとって良くありません。
起きる時間や寝る時間、食べる時間がバラバラでは、脳の働きが鈍くなります。
いつも不規則な生活を送っていると、脳が戸惑ってしまい、物事がうまくはかどらなくなります。
新潟大学大学院教授の安保徹さんは、2007年の暮れに睡眠と体調の関係についての調査を行いました。
早寝早起きをしている人たちと、夜更かしをしている(午前零時すぎに寝ている)人たちの体調を調べました。
すると、次のことがわかりました。
早寝早起きをしている人は、睡眠時間が7時間以内でも、健康に暮らせる。一方、午前零時すぎまで夜更かしをしている人は、睡眠の質が悪くなることで、より長時間寝ないとバランスが取れなくなっている。昼ごろまで寝ていても、起きた時に頭がボーッとして冴えない。
不規則な生活をするということは、体を壊す危険性や体調不良を抱えて生きるということになるのです。
体調が悪ければ、脳もよく働きません。
毎日の勉強で、知識をたくさん覚える
小学生・中学生・高校生の頃は、いろいろな知識を片端から覚えていくと良いです。
この時期は前頭連合野が一番発達する時期ですので、知識を詰め込む、暗記を繰り返すことで脳がよく発達します。
勉強する時間帯を決めておきましょう。
決まった時間に同じことをするのを習慣にすると、それに脳が慣れて、スムーズに行動しやすくなります。
わたしは、午前5時45分に起床し、朝食を食べ、朝刊に目を通し、30分散歩して、午前7時30分に勉強や仕事を始めています。昼食を食べて、午後からは午前中の勉強や仕事の続きをしています。そして、午後2時から4時までその日の授業の準備をしています。
こういうふうに1日の自分の時間割を決めて行動すれば、生活が充実します。
特に何か成果を出そう、成し遂げようという場合には、いつも同じ時間帯に勉強に取り組んで反復していけば、その分野について脳が活発になってよく働くようになります。
難しい問題や面白くない嫌な課題に直面したら、「これをやり遂げたら達成感があるな」、「こんな工夫をしてみたら時間が短縮できた」、「これをクリアしたら自分にごほうびだ」といった発想の工夫をしてみるのです。
楽しい気持ちで学ぶことが大切です。
本を読むということ
学力向上の条件、② 毎日の勉強に関することです。
一番楽しく知識を詰め込む方法は、本を読むことです。読書は勉強の基本です。本を読む習慣は、小学生のうちにつけておきましょう。中学生で本を読まない人は中学卒業までに読書の習慣をつけましょう。中学や高校くらいまでは、読書量と学校の成績とはあまり関係ありません。しかし、大学や社会に出てからは、読書量で生き方や考え方に差が現れてきます。また、どういう本を読んできたか、どういう読み方をしてきたかで、人生は変わります。
わたしは、2000年から簡単な読書日記をつけています。読書量を計算してみますと、1年間におよそ150冊の本を読んでいることになります。
もっとたくさんの本を読みたいのですが、読書に当てる時間が限られていますので読みたいだけ読むというわけにはいきません。
読む本は、図書館で借りたり、近くの書店で買ったりします。買って読み終わった本は増える一方です。本を整理するために、杉板で書棚を拵えて、自宅の一室を図書室にしています。こんなMy library(わたしの図書室)をつくるのも楽しいです。
読む本は教育関係の書物が多いのですが、文学作品や医療関係などさまざまな分野の本を読むようにしています。
私の本の読み方は、夏目漱石なら漱石の書いた本ばかり集中的に何冊も読みます。そうすると漱石の暮らしぶりが見えてきたり、まるで旧知の間柄(むかしからの知り合い)のように思えたりします。そして、漱石と対話しているような感覚で本を読めるようになります。
哲学ならソクラテスやプラトンのギリシャ哲学、老子、荘子、孔子の中国哲学、釈迦のインド哲学を一時期に読めるだけたくさん読みます。そうすると、洋の東西を問わず賢人(かしこい人)は同じようなことを語っていることがわかります。日本語に翻訳された本を読むわけですが、それでも2000年以上前の異国の人たちとの対話が楽しめるのです。
読書は手軽にできますが、奥が深い。読みたい本や読まなければならない本が山のようにあります。しかし、それらすべてを読めるわけではありません。今のペースで読めたとしても、午前零時すぎに寝ている40年間で読めるのは6000冊です。ですから良い本だけを選んで読むようにしています。
安定した気持ちで、力を発揮する
京都大学名誉教授で脳科学者の久保田競さんは、
「人は体を動かしたり、おいしいものを食べたり、ほめられたりするなど、快い感じを起こす刺激を受けると、ドーパミンが分泌され、神経細胞の働きが良くなります。このドーパミンこそが脳の発達を良くすることに欠かせない伝達物質です」
と言います。
つまり、気持ちよいことをしていると脳が発達して、考える力が向上したり、生きる気力がわいてきたり、前向きな性格になったりするのです。
反対に脳の発達を阻むものは、ストレスである、と久保田さんは言います。
「ストレスとは、さまざまな外部刺激が“心や体への負担”として作用したときに、心身に現れる多様な機能変化のことを言います。
子どもにとって、ジェットコースターやホラー映画のように怖さしか感じられないような特殊な恐怖体験は、脳の発達に悪影響があります」
また、大人からガミガミ怒られることも、子どもには大きなストレスになります。
子どもの安定した気持ちを育てるのは、やはり家庭です。久保田さんの言葉を続けます。
「家族の愛情をたっぷり受けると脳の発達に良いということがわかっています。
子どもが愛情を受けて育って、積極的に行動するようになると前頭前野の発達が促進されます。この領域には、頭を良くする他にも自分の行動にブレーキをかけたり、欲望を我慢したりする「抑制機能」があります。愛を注ぐことが子どもの「キレ」の予防にもなるのです。
脳を発達させるには、愛のある豊かな表情に接することや、相手と楽しく会話するなどのコミュニケーションをとることが大切なのです」
甘やかす(わがままにさせる)のではなく、深い愛情をもったふれあいは、子どもの脳を発達させ、子どもを「発芽」させるのです。