私の子育て方法 読書と登山が学びの原動力
学び舎通信 173
手づくり遊びが学びの原点
私の家にはゲーム機はありません。自分の手を使って、自由な発想で玩具を作りました。材料は、身の回りにある、厚紙・段ボール・紙パック・ペットボトル・割り箸・輪ゴムなどです。はさみ・のり・セロテープ・クレヨン・色鉛筆を使い、小さな頭であれこれ考えながら、ユニークな作品を作りました。
折り紙にも夢中になりました。図書館で折り紙の本を何冊も借りてきて、小さな手を器用に動かして、一つひとつ丹念に折っていました。数枚組み合わせて、複雑な幾何学模様や恐竜などの精巧な作品を、知恵を働かせながら仕上げていました。
山で取ってきた竹で、竹とんぼや凧や竹馬を作りました。遊びながら考え、遠くへ飛ぶ竹とんぼや高く揚がる凧を、工夫を凝らして作りました。
花や野菜を熱心に育てました。「しょうくぶつのさいばい」という図鑑は、子どもの愛読書の一つでした。ゴーヤ・インゲンマメ・ミニトマト・ピーマン・キュウリなどの野菜は、丈夫に育ち、夏の食卓に並びました。ヘチマを育て、たわしを作ったこともありました。四季折々の花もきれいに咲かせました。
金づちやのこぎりなどの大工道具を使って、木の玩具を制作しました。釘の打ち方や木の挽き方を見様見まねで覚えました。体を使って、考えながら創造していく喜びが、学ぼうとする心を強くしました。
自然が学びの原風景
山や川や海へ連れて行くと、子どもは自分で色々な遊びを考えて、日が暮れるまで、自然の懐で溌剌と動き回っていました。小さな生き物を相手にしたり、木や石や土を遊び道具にしたり、高原でキャンプをしたり、青い空に浮かぶ白い雲や赤く染まった夕焼けを眺めたり、山桜の花吹雪を全身に浴びたり、野に咲く花の香りを胸いっぱい吸い込んだり、蝉時雨の中で虫捕りをしたり、赤や黄に色づいた木の葉や大きく実ったどんぐりを集めたり、きれいな色の石や美しい形の貝殻を拾ったり、雪だるまやかまくらを作ったり、山や川や海は子どもの庭でした。
そこで子どもは何をしてもいい、自由なのです。太陽の下で、野原を駆け回り、汗みずくになって夢中で遊んだあとの子どもの体には、土の匂いや草の匂いや焚火の匂いが染み着いていました。
山や川に棲んでいる生き物を持ち帰って、飼いました。飼育ケースを居間に並べ、飽くことなく、生き物たちの様子をじっと見つめていました。
森羅万象を心に感じ取りながら、子ども時代を過ごしました。森厳なものや底知れぬ力のあるものと出会い、触れ合ってほしかったので、遊園地に連れて行ったことはありません。自然の中では、様々な現象に出会います。それを不思議に感じ、その不思議を知りたい、学びたいという意欲が湧きました。
子どもが自然から学んだことは、計り知れないくらい大きいです。自然は偉大な教師です。学ぶための強靭な心組みを育ててくれたのは、山や川や海や星や雨や雪や風や木や石や野生の生き物たちでした。
読書と登山が学びの原動力
本をたくさん読み、テレビはあまり見ませんでした。学校へ行く前の30分間は、本を読んでいました。親子で共通の本を読み、感想を語り合ったこともあります。本を読んで、自分の知らない世界を想像する楽しみが、学ぼうとする心を広くしました。
誕生日やクリスマスのプレゼントは、本や事典や図鑑と決めていました。次第に本が増えていき、杉板で本棚をいくつも作って、ひと部屋を図書室にしました。国語辞典を部屋ごとに1冊ずつ置き、意味の分からない言葉をすぐ調べられるようにしました。
初めて山歩きに連れて行ったのは、生まれて1年経った頃でした。やがて小さな足で頂上まで登れるようになりました。山頂に着くまで、たくさんの植物や生き物に出会います。家に帰ると、それらを図鑑で調べます。こういうことを繰り返していると、鳴き声を聞いて鳥の名前がわかったり、葉っぱを見て木の名前を言い当てたりできるようになりました。
小学4年生になると、大人の登山者より速く歩けるようになり、テントや食糧を詰め込んだザックを担いで、高い山に登りました。山の頂に近づくにつれて、視界が開けてきます。自分の力で登りきったという達成感が疲れを吹き飛ばし、山頂からの雄大な眺めや夜空を埋め尽くす星々に感動しました。 重い荷物を背負って山道を歩くのは辛かったと思いますが、弱音を吐かず、山道での生き物たちとの出会いを楽しみながら歩いていました。高く大きな山も一歩一歩を積み重ねているうちに、目指す頂上に辿り着けるということを体感しました。