私はどう生きるか
学び舎通信 190
私はどう生きるか
吉野源三郎が書いた「君たちはどう生きるか」という小説が出版されたのは、日中戦争が始まった80年前の頃です。私は20年前に、岩波文庫の原作を読みました。一昨年その漫画版が発売され、私は学び舎の中学生に薦めました。
「君たちはどう生きるか」は、父親を亡くして母親とふたりで暮らす15歳の中学生のコペル君が、ノートや手紙で叔父さんと交流し、それによって、成長していく物語です。いじめ、貧困、格差など、今の子どもたちが悩んでいる問題が取り上げられています。いじめから友達を守るつもりだったコペル君が、勇気を出せずに仲間を裏切ってしまい、苦悩する場面もあります。
吉野源三郎がこの物語で最も伝えたかったのは、「周りに流されず、自分で考えて行動する」ことです。この世を生きるには、生き方の道しるべを自分のなかにもつことが大切だと思います。
生まれた時から優れた性格の持ち主も、立派な人物も、魅力的な人間もいません。挫折や落胆や悲劇など悲しいときや辛いとき、仲間や助けがなく、ひとりきりになり、ぎりぎりまで追い詰められたことで、「生きるとは、勇ましく力いっぱい闘うことなのだ」と悟った人が、高潔な人格になれるのだと思います。
子ども手帳
見開きで1週間の予定が書き込める手帳に、①毎週日曜日の夜に、1週間分の予定と毎日やるべきこと(宿題、皿洗いなどのお手伝い、守るべきこと)を自分で書きます。②やるべきことができたら、赤ペンで文字の上から線を引きます。③日曜日にその週に消せた分のポイントを計算します。やるべきことは一つにつき1ポイントにします。
これが「子ども手帳」の使い方です。子どもが自分で自分を管理するものです。手帳に記録することで成果が目に見えるようになり、自ら計画を立てて実行するようになった子どもが多いそうです。
子ども手帳は、「うちの子は勉強しないのですが、どうしたらしますか」という相談で、石田勝紀さんが5年前に考案しました。子ども手帳はいつでも始められます。市販のどんな手帳でもノートでもいいです。簡単なことから記入し、「やるべきことができたら赤ペンで消す」を繰り返します。ハードルの低いものをたくさん書いて、どんどんポイントにしていき、ポイント数をグラフ化すると、達成感が味わえ、子どもの自己肯定感も上がります。
子ども手帳は生活習慣にも応用できます。自分で起床できない子に「朝7時に起きる=ポイント3倍」とすると、「3倍」に反応して自ら起きるようになった子どもがいます。他にも、「うそをつかない」「元気にあいさつする」「後片付けをする」といった道徳・倫理・秩序に関する家庭の約束事も3週間続ければ、習慣になった子どももいます。自発的に行動できるまで、毎日こつこつ続けることが大切です。
自立と自律の学び
身につける価値のあることは、稽古や練習をできるだけ多くしたほうがいいです。努力を積み、充分な工夫を重ねます。自分で学ぼうとする心が根本にあることが大切ですが、先生の忠告を聞き入れず、充分な修業ができていないのに、自分勝手な思い込みで練習しても、中身が空っぽで、実を結びません。
世の中の多くの人は、人格ではなく、お金や土地や建物などの所有しているものによって、相手の価値をはかろうとします。しかし、教養を身につけ、自分の本質に敬意を払う人は、自分が所有している財産を恥じます。教養とは、心の豊かさのことです。
教養は生きた財産です。心の豊かさを養うには、学校の勉強をしているだけでは不充分です。たくさんの本を読んだり、身体を使って仕事をしたりすることで、幅広い知識や学問が身につきます。
人生の定めは、自分自身を追い求めることです。自分以外のものに依存している人は、集団におもねり、仲間を頼みにするようになります。自分の外側に価値あるものを求める人の精神力は、弱いです。
人間は、誰にでも持って生まれた力があります。外からの助けを退け、泰然として、ひとりでやろうと決心したときに、人は強くなります。他人に何も求めない生き方をしていれば、世の中が激しく移り変わっても、不動の心を持てるようになります。 大学生の9割以上が、自律的に学べないそうです。これは子どもを他律的に勉強させた大人の責任です。学び舎で、学び方を自得した子どもは、自立した自律的な学びができる人に成長しています。