学ぶことと考えること

学び舎通信 187

学ぶことと考えること

わかりやすいとかすぐに役に立つことが大切だと思っている人がいますが、実際は、すぐに何かの役に立つという勉強はありません。ところが残念なことに、試験で良い成績を取ることが中学校や高校の学校教育の目的になってしまっていて、それが先生の評価につながっています。

勉強の基本は独学です。学び舎の教育の目的は、自分でやることを決めて自分の頭で考えて勉強する、そして自立した強い人間になることです。

大人も子どもも自分で考えることが少なくなっています。考えるということは、数学の問題を考える場合のように出された問題を解くために考えることだけではありません。考えるということは、普段の生活のなかで、自分の知っていることや感じたことに基づいて、筋道を立てて頭を働かせることです。

出された課題をしているだけでは、与えられたものだけをやっていることになります。人から与えられたものだけでなく、自分がおもしろいと思ってのめりこんでいくのが、ほんとうの学びです。

今は教えてもらうことのほうが多いかもしれませんが、一生懸命学んでいるうちに、物事を順序立てて考える力をついてきます。そして、自分が学びたいことを自分の力で学んでいけるようになります。

見つけることと考えること

人から教わってわかったことと自分で見つけてわかったこととでは、大きな違いがあります。誰の力も借りずに、子どもが自分ひとりの力で見つけたことは、その子にとってとても大きな喜びになります。

学校で行う試験は、点がつけやすくあとで処理しやすいように作られているので、記憶力が必要な問題が多いです。しかし、それではほんとうの頭の良さはわかりません。記憶していることを答えることとその場で考えて答えを導き出すこととでは、頭の働きが異なります。その場で自分の頭の中で考えて、問題をひとつひとつ解いていけることで、ほんとうの賢さがわかります。問題の意味をよく考え、自分の力で問題を解く道筋を発見し、答えにたどり着いたとき、心が強く揺さぶられます。

知ることとわかることは違います。ところが、知っていることが何か有意義なことのように、子どもも大人も思い込んでいるようです。質問にぽんぽん素早く答える子どもは高く評価されますが、「待てよ、こうも考えられるな」と、迷うようなのはだめな子どもと見られてしまうことがあります。学校教育で子どもを計る尺度が、ものを知っているかどうかに置かれていて、自分でじっくり考えて、すぐに答えることができないような子どもはだめだと思われる場合があるのは問題だと思います。イギリスの元首相、ウィンストン・チャーチルは、「私は考えることは好きだったけれど、試験の成績でも、運動競技でもぱっとせず、先生からも同級生からも、学校じゅうのびりっ子だと思われていた」と言っています。

本を読むことと考えること

本が読まれなくなったことは、文明の変化とも言えます。読書がテレビやゲームやスマートフォンの持つ手軽なおもしろさに押されてしまったのだと思います。テレビや動画は、画面に映像が流れて私たちを楽しませてくれます。それに対して、本は自分が積極的に読まなければ、楽しさがわかりません。

映像は受け身で見ることができます。特にテレビは見る人があまり考えなくても、楽にわかるように作られています。一方、読書の醍醐味は、場面や時間の経過を想像したり、筆者の考えに共感したり批判したりしながら、読み進め理解することです。

本は、自分で先に進もうとしなければ誰も連れて行ってくれません。それに比べて、テレビはつけてしまえば、勝手に情報が流れてくるので、自分でその道をたどらなくても、最後まで連れて行ってくれます。本は、一本の道を自分でたどりながら読み、内容を理解していく、そのことがおもしろいのです。

本を読むことと自分で考えることはつながっています。本を読むことで、自分の考え方を育てることができます。世の中には、自分の頭で考えないで、誰か偉い人が言っているからと判断を人に任せて、付和雷同する人が大勢います。そうではなく、自分で広く深く考えて行動できる人間になるのです。そのためには、日頃の訓練が必要です。頭が柔らかいうちに、たくさん本を読んで、世の中にはいろんな考え方があることを知っておいたほうがいいです。 良い本を読んで、心を磨き、鍛え、心が満ち足りることで、心の中が美しくなります。