才能を作る 柳川範之さんの勉強方法

学び舎通信 77

目次

才能を作る

「才能がある」とはどういうことでしょうか。

「才能」とは、「物事をやりとげたり、理解したりするすぐれた力」と手元の辞書に書いてあります。

学び舎で学ぶ子どもたちを見ていると、才能とは、生まれ持った特別な能力を意味するわけではない、ということがわかります。

才能は、日々、コツコツと努力することから生まれます。コツコツ努力を続けている子どもは、あるとき一気に能力が開花(成果が現れること)します。その輝きを目にした人は、「あの子には才能がある」などと言うわけです。しかし、そうではないのです。「才能がある」のではなくて、その子は日々の努力で「才能を作った」のです。

子どもたちにとって、大人もそうですが、最も困難なことは「努力すること」です。「努力すること」がきちんとできる人は、たいていのことは成就(願いがかなうこと。成しとげること)しています。

毎日の生活の中に「努力を続ける仕組み」を組み立てることが、成果(あることを行って得られたよい結果)を得るためには意味のあることだと思います。

大切なことは、自分の感情や気分に左右されずに努力を継続する、ということです。どんなときでも目的に向かって行動できるようにするのです。

ひとつひとつの進歩に満足する

「努力する」ためには、努力したいと思うような仕掛けが必要です。低いレベルから少しずつ達成感を得ることで、やる気を持続させることができます。

毎年素晴らしい記録をつくっているイチロー選手は、小さな満足を積み重ねているそうです。イチロー選手は「1試合終わって良いヒットが打てたら、まずそれで満足する」というのです。

1回1回きちんと満足することが大事であり、満足することで次の目標が見えてきます。一つずつ満足して初めて「もっとこうしたい」という意欲が生まれてくるのだと思います。

小さな満足が新たな努力を生み出します。「やった!できた!」という「小さな満足」を得ることで努力がそんなに億劫(気が進まずめんどうに感じるようす)ではなくなります。最初の努力は次の努力を呼び込み、次の努力はもっと大きな満足を呼び込みます。

本を読むのが苦手ならば、やさしそうな内容の本から読み始めてみましょう。1冊読み通せば、それなりの達成感が得られます。薄い本を読み重ねるうちに、知らないうちに読む力が備わってきます。そのうち、もっと読み応えのある本を手に取りたくなってくるはずです。

毎日コツコツ練習する習慣が身につけば、努力することの心地よさに目覚め、必ず達成感が味わえます。少し困難な練習を繰り返していれば、いつの間にか思いもしなかった地点に到達(行きつくこと)できるのです。練習を続けている人は、必ず「努力すること」の素晴らしさに気がつくはずです。

勉強のしかたを工夫する

柳川範之さんは、小学4年生までは、日本の小学校に通っていましたが、父親の海外勤務の都合でシンガポールに住むことになりました。シンガポールの小学校を卒業してから、日本に帰国しました。その後、日本の中学校を卒業して、父親とともにブラジルに行きました。

ブラジルでは、高校に行かずに大学入学資格検定試験(現在は高校卒業程度認定試験)を受けて、慶応義塾大学の通信教育課程を卒業して、独学(ひとりで学ぶこと)で東京大学の大学院に進みました。現在、東京大学大学院の経済学研究科准教授です。

柳川さんは勉強の仕方を工夫した過程を、『独学という道もある』に書いています。

ノート

中学校での最初の試験のときのことです。「やる気を出して、きちっとノートを作って、しっかり覚えようと思い、それぞれ主要科目について1冊ずつノートを買ってきました。一生懸命きれいなノートを作り、授業でとったノートをまとめたり、参考書と教科書とノートを照らし合わせていろいろまとめたりしたんですね。そして、きれいなノートはできるにはできたんです。あとから見ても、非常によくわかるノートだったと自分でも思うぐらいのものでした。けれども、実はそのときの試験の結果というのは、あまりはかばかしくなかったんですね。」

ふり返って反省してみました。「ノートを作ることに一生懸命になっていて、ノートの中身をきちっと覚えるとか、中身をきちっと考えるということがおろそかになっていたように思いました。」

そして、「ノートを作ることよりも自分の頭の中で考えたり、整理をしたり、一生懸命覚えようとしたり、ということに時間を使ったほうがずっといいということ」に気がつきました。

こうして、まとめノートを作らない勉強方法に変えました。「ノートというのは書いてしまうと安心してしまうところがあるんです。ノートがないとなれば、しっかり覚えなければいけないという気になるんです。」

しかし、勉強するうえで書くことは重要です。「ただ書くことによって頭に入ったり、整理をしたりということはありますので、たとえば数学の証明だったら、その証明の図をきちっと書いてみるとか、そういうことはやるのですが、ノートというかたちで残す必要はぜんぜんない、ということになりました。あと暗記的なものは、メモで最後にぱっと見られるようなものを作るくらいにしました。試験勉強の最後の最後に、本当に覚えなければならない重要単語とか重要年号を書いたものだけは作る。」

柳川さんの伝えたいことは、「だから皆さんノートをとらないほうがいいですよということではなくて、やはり人それぞれいろいろなやり方があるということ」です。「ぼくの場合はノートをとらずに自分なりの暗記の仕方とか、頭の使い方をしたほうがずっと勉強の能率が上がったということです。でも、やはり普通はノートを書いて、きちっとまとめて覚える、ということが一般には言われていますし、それで能率が上がる人は当然いると思います。ただ、そういう既存(前からあること)のやり方にあまりこだわらずに、少し自分なりのやり方を工夫してみるのもいいんじゃないか、という気がするんですね。」

太田あやさんが書いた『東大合格生のノートはかならず美しい』という本には、東大合格生たちのノートの写真があります。几帳面にまとめられたノートを見ると、学んだことをまとめる力、整理する能力が、学力を向上させるために必要であることが理解できます。しかし、柳川さんはそういうふうにしなかったのです。

柳川さんが学者になって、あらためて思うことは、「勉強や研究の自分なりのマスターの仕方を自分なりに工夫することが実はとても大事だ」と書いています。「そこをうまくやれると、ずっと早いスピードでステップアップをしていきます。」

問題集

柳川さんはこのように言います。「問題集の問題をやることは大事なことですが、これも最初の時に失敗したのは、苦労して一生懸命考えて問題を解いていると、時間がかかってしょうがないんです。何のためにそれだけの時間をかけているのか、という疑問が湧いてきます。もちろん、時間をかけて一生懸命考えたり、解いてみたりということも必要ですけど、いかんせん(残念ながら)、そこまで学力が届いていないと、無駄に考えてしまうことが多い。そこで無駄に時間をかけていることがけっこうあることに気づきまして、これじゃいけないと思い、発想を変えました。極端な言い方をすると、わからなかったらすぐに答えを見る、というパターンで、問題集を使うことにしました。

ただし、単に答えを見て、それですますのではありません。問題集になぜそのような問題が出ているかといえば、それはそれなりの理由があるわけです。実は出ている問題と答えがその科目の重要なまとめになっているんですね。

だから、問題集の問題を解きながら、ある程度は考えるにしても、その答えを見て、そこで重要点を把握(しっかり理解すること)するという工夫をするようになりました。そのうちに、これは要点整理に使えるということになったので、逆にある程度割り切って、この1冊は要点整理に使う問題集、こっちはある程度ちゃんと解くのに使う問題集というように使い分けていきました。最初はなかなか解けない、しょうがないから見ようか、というようなことをいろいろくり返したんだと思います。」

目標

柳川さんは、目標の立て方も工夫しました。

「ぼくが行った工夫の一つは、わりと短めの目標を立てるということでした。」遠いところに目標があると、やる気を持ち続けるのは困難です。「たとえば1週間とか、明日はこの辺まで進めるとか、来週はこの辺りまでやってマスターするとか、あるいは1か月さきにはこういうことをやっているというように、わりときめの細かい目標を自分で立てました。」柳川さんのやり方は、「長めにせずに短く目標を立て、それに向かってやっていくようにする」という仕方でやる気を持ち続けさせました。

「単に漠然とした目標を決めるだけでは、なかなかやる気が出ない。短期的に、明日これをやると決めておく」そうすれば、それをなんとかできるように頑張ろうという気持ちになります。

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学び舎タイムズ編集部

教職歴37年。中学・高校教諭、予備校講師を経て、1996年6月に小さな個人塾を開塾しました。
「将来的に役立つ学力を身につけた子どもを育てたい」という想いから生まれた、こだわりの天然木造教室は保護者からも好評です。

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