息子が灘高に合格するまで

学び舎通信 94

目次

灘をめぐる冒険

不思議に思ったことは、「なんで?」「どうして?}と、幼い頃のH君は口癖のように尋ねました。理解できるまで、何度も質問し続けました。ものごとを突き詰めて考える子どもでした。2011年2月、H君は最難関と言われる灘高校にたった一人で挑みました。H君の学習の足跡を振り返ります。

小学時代|学習の基礎を築く

H君が学び舎で学習を始めたのは、小学2年生のときでした。1週間に2日、算数と国語の学習をしました。標準テキストと発展テキスト『成長する思考力』を並行して勉強しました。

3年生になって勉強時間を増やしました。この頃、H君は自分で学習計画を立てていました。小学6年までの学習計画を小さな紙に書いて、くるくる丸めて筆箱に入れていました。3年の3学期から理科の学習を始めました。3学期の終わりに5年の標準テキストを完了しました。

4年生の1学期の約4か月間で小学6年の標準テキストを仕上げました。H君の集中力は長時間持続します。大量の問題を短時間で解いてしまいます。夜は中学生に交じって9時まで勉強しました。2学期から発展テキストを四谷大塚の『予習シリーズ』に変え、算数・国語・理科・社会を学習しました。『予習シリーズ』は最高レベルのテキストですが、一人で黙々と難問に挑戦しました。

まず例題を解き、問題に対する考え方を理解する。次に類題を解く。そして、練習問題に進む。さらに準拠問題集をする。間違えた問題は、もう一度考え直す。これがH君の学習法です。

5年生になったH君はさらに勉強時間を増やしました。月曜日から金曜日までは、1日4時間勉強しました。土曜日は朝2時間、夕方2時間、夜2時間、計6時間勉強しました。このスケジュールもH君が自分で決めました。2学期から歴史の勉強を始めました。自宅で歴史図鑑や人物事典を読み、学び舎で『予習シリーズ』の問題を解きました。5年生の3学期に、全ての趣味を断ちました。将棋、夏の昆虫採集・飼育、日曜日の登山、夏休みのキャンプ登山、毎日の読書も入試が終わるまでしませんでした。

6年生の1年間で勉強しなかったのは、修学旅行の2日間だけ。363日、毎日机に向かって勉強しました。朝は7時に起きて朝ご飯を食べ、学校に行くまで40分間計算と漢字の勉強、夜は11時半まで勉強しました。休日は自宅で10時間勉強しました。生活のリズムを整え、一定のペースで勉強を進めました。1月、東大寺学園などを受験し、全ての学校から合格通知をいただきました。 

中学時代|独自の学習法を構築する

H君は第一志望の私立中学校に入学しました。中高一貫の進学校は、中学1・2年で中学3年間分の学習、中学3年で高校1年の学習、高校1年で高校2年の学習、高校2年で高校3年の学習、高校3年で大学受験の勉強をします。

H君は自宅で一人で勉強を始めました。朝は6時に起きて朝食を食べ、7時の電車で通学しました。行き帰りの電車の中で、1時間ずつ勉強しました。

H君は学校より先の勉強を一人で進めていました。2年生の2学期に「学校の勉強より自分のしたい勉強をする」と言って、テスト勉強をしなくなりました。授業中も「自分の勉強」をしていました。

数学は、中学数学を終了後、2年生の9月に、高校数学の勉強を始めました。数研出版の「青チャート」「赤チャート」の数学ⅠAを3か月でやり終え、「赤チャート」の数学ⅡBに取り掛かりました。「赤チャート」は東京大学や国公立大学医学部の受験生用のテキストです。2年生の1月、大学入試センター試験の数学を解いたところ、計算ミスで1問間違えただけで、あとは全て正解しました。

英語は、中学に入学してから勉強を始めました。1年生の夏休みに英作文の勉強に集中したことで、英語の力を伸ばしました。1・2年生の時は、ラジオ講座の基礎英語も毎日聴きました。2年生の12月に中学英語を完成させ、3学期から高校英語の勉強を始めました。1年足らずで、高校3年間の英語を完成させました。中学3年生の1月、大学入試センター試験の英語を解いたところ、200点中185点でした。

幼年時代|遊びが学びの道しるべになる

1〜2歳の頃のH君は積み木に熱中しました。散歩をし、野の花や小さな生きものに親しみました。

3〜4歳の頃は庭遊びに夢中になりました。土、石、木の枝、水を使って一人で黙々と遊びました。また、牛乳パック、割り箸、輪ゴム、厚紙など家にあるものを材料にして、ハサミ、ノリ、セロテープを使って、様々なおもちゃを作りました。

5〜6歳の頃になると、綾取りと折り紙の遊びに没頭しました。図書館で綾取りや折り紙の本を借りて読みました。小さな手で器用に毛糸の輪をいろいろな形に変化させて遊びました。また、折り紙を折って植物や動物や昆虫を作りました。折り紙の世界に魅了されて、日本昔話の登場人物、幾何学模様、恐竜まで作りました。数枚の折り紙を組み合わせた作品も折りました。最高傑作は、何時間もかけて折り上げたティラノサウルスでした。折り紙遊びで使った折り紙は、数百枚。従兄にもらったレゴにも夢中になり、小さなブロックを組み合わせて乗り物や生きものを作りました。山の木や竹で、クリスマスリースや竹トンボや竹馬など昔ながらの遊び道具を作ったり、凧を作って空高く上げたりしました。

日常生活|簡素な暮らしが学びの土台になる

小学校に入学するまで、たくさんの絵本や紙芝居を図書館で借りて読みました。将棋の駒の動かし方を教えると、将棋の本を借りて定石の研究を始めました。知りたいことやわからないことは、何でも書物を読んで調べました。名作が揃っている岩波少年文庫、福音館文庫や手元に置いておきたい本は、書店で買いました。何時間でも集中して本を読んでいました。小学校を卒業するまでに200冊以上は読みました。

H君の部屋には、手作りの本棚が3本置かれています。そこには、昆虫・植物・動物・宇宙・人体などの図鑑や事典、国語・漢字・英和などの辞典、勉強に使う参考書・問題集、様々な本が並んでいます。ゲーム機はありません。テレビもほとんど見ません。

音楽は、小学校低学年までは、童謡をよく聴きました。高学年になると、クラシック音楽を聴きました。特にバッハ、モーツァルト、ベートーベン、シューベルト、ドボルザークを好んで聴きました。

山や川や海でキャンプをしました。山に登ったり、川で釣りをしたり、砂浜や磯辺で遊んだり、泳いだりしました。満天の星空をあおいだり、腐葉土の匂いをかいだり、夏の草いきれを受けたりしました。自然の懐に抱かれて、四季折々の変化を感じました。自然に親しむ時間を多く持ちました。

H君は1歳半になったときから山歩きを始めました。雨の日も風の日も雪の日も山に登りました。5歳までに大阪南部の主な山は全て登りました。6歳になると、奈良県の大峰山系や長野県の3,000mを超える日本アルプスの山々に登り始めました。4年生になると、健脚並の歩度で登りました。小さな一歩を積み重ねることで、高い山の頂に立つことができるということを体で感じることができました。

灘への道|最高峰に挑む

「受験業界の通説では、全国の高校入試で最も偏差値の高い学校は東の筑波大学付属駒場と西の灘ということになっている」と橘木俊詔さんの『灘校―なぜ「日本一」であり続けるのか』にあります。   

登ろうとする山は高く聳えています。山が高ければ高いほど、しかも単独で登るには、綿密な計画と厳しいトレーニングと強い精神力が必要となります。 

H君が「灘高校に行きたい」と言い出したのは、2年生の夏でした。「灘を受験する」と心に決めたのは、2年生の2月13日。入試の1年前でした。その日から、H君は一人で受験勉強の計画を立て、受験準備を始めました。3年生の10月、「受験勉強に集中する」ために、私立中学から地元の公立中学に転校しました。「友達や先生方が親切にしてくれる」と喜んでいました。

朝は6時に起きて、1時間30分勉強。夜は11時30分まで勉強していました。受験が終わった現在もこの生活習慣を続けています。H君は分単位の勉強計画を表に書いていました。それに従って日々の勉強を進めていました。受験勉強に使用した参考書や問題集は全て大学受験用です。灘高の過去問は17年間分を繰り返し解きました。そうすることで、「出題傾向が見えてきた」と言っていました。 

兵庫県西宮市や大阪市上本町で模試を6回受けました。9月の駿台模試で偏差値80を超えました。

「灘は別格」と言われます。H君は英語の学習を、9月まで高校英語の文法、10、11月は5,000語レベルの単語・熟語、12月から長文読解と進めました。関関同立、早慶の過去問を解き、受験直前は東京大学の過去問を解いていました。英語だけで30冊以上の問題集を使用しました。「今年の灘の英語に、東大の入試とよく似た問題が出た」と言っていました。

2月10、11日、日本各地から151名の少年たちが、灘に集まり難問に挑戦しました。1日目は、数学110分、理科70分。2日目は、英語90分、国語70分。2月12日合格発表。H君は、独力で目標の山頂に立つことができました。

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学び舎タイムズ編集部

教職歴37年。中学・高校教諭、予備校講師を経て、1996年6月に小さな個人塾を開塾しました。
「将来的に役立つ学力を身につけた子どもを育てたい」という想いから生まれた、こだわりの天然木造教室は保護者からも好評です。

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