ピーター・フランクルの見た日本 家庭のコミュニケーションチェック10
学び舎通信 91
ピーター・フランクルの見た日本
ピーター・フランクルさんは、1953年にハンガリーで生まれました。1971年の国際数学オリンピックで金メダルをとり、1988年から日本に住んでいます。12カ国語を話せ、大道芸人としても有名な数学者です。ものを持たず、頭と心に財産を持つことをモットー(しっかりと心に信じ守っていることがら)としています。ピーターさんは、『おしん』というテレビドラマに感動したそうです。
「それは、貧しいながらもまわりの人への感謝を忘れず、苦難と懸命にたたかう女性の物語でした。日本社会のなかで評価されるのは、そんなふうに頑張っている人、努力し続ける人、まじめな人、素直な人だと思いました。大事なのはその人の持っている財産やお金ではなく、人間性だと思ったのです。考えてみると、僕は日本に来る以前から、日本についてそんな印象を持っていたことを思い出します」
ピーターさんは、昭和天皇も強く印象に残っているそうです。
「それは魚の研究をやっている姿でした。自分で魚を捕り、顕微鏡で調べ、論文を書いていることに、僕はとても驚いたのです。人が評価されるためには、ただお金と権力があればいいわけではない、日本という国では、人間は健康である限り努力し続けなければならないということです。この国では、頑張って努力し続ければ、まじめで素直であれば、まわりの人は認めてくれるのだと感じました」
しかし、近頃の「日本人の考え方の変化」をピーターさんは残念に思っています。
「それは、日本もアメリカのように、経過ではなく、結果(その物差しはふつうお金です)で人を評価するようになってきたということです。僕にとってはその変化は、とても残念でショックなことでした。身につけているものや、乗っている車、住んでいる家やマンションなど、財産で人を判断する傾向が強まってしまったのです」
大切なのは結果か経過か?
「人生において、結果や成果が大事なのか、それともそこまでの経過やプロセスが大切なのか、その問題をここで考えてみようと思います」と、ピーターさんは言います。
「残念ながら、自分の余命(残りの命)が残り少ないと知ったときのことを考えてみましょう。もし、あなたが成功をおさめることを求めて生きてきたにもかかわらず、その時点でまだ結果を出していなかったら、いったいどんな気持ちになるでしょうか。きっと、それまでの自分の人生はむだでむなしいものだったと感じることでしょう。また、仮に人生を終える前に結果を出したとしても、そのときにはすでに余命わずかだとしたら、その人の人生は本当に幸せだったと言えるでしょうか。
逆にあなたが結果だけではなく、毎日努力し、かつそのプロセスを楽しんで生きてきたなら、たとえ死を前にしても、あなたは自分の人生に満足することができるのではないでしょうか。僕は、そのためにも、結果を追い求めるより、日々のプロセスを大切にして生きてほしいと思うのです」
最近では、武道でも勝負の結果が重視されるようになりました。その結果、動作が多少汚くてもいいと考えたり、ずるい手を使ってでも逃げ回ったりして、最後にはポイントで勝つことを目指すような傾向が見られるようになりました。
しかし、それでは自分を向上させることはできません。ずるい手を使わないで、正々堂々(態度が正しくて、りっぱなようす)と戦うことで、自分を前よりもよくしていくことができるのです。
他人ではなく昨日の自分とくらべる
「本来、どんなことについても、他人との比較は不要です。比較すべきなのは他人ではなく、昨日の自分、一昨日の自分なのです。そこには誰にでも勝ち目があります。ふつうは、努力し続ければ、昨日の自分よりは、少しだけ前に進むことができるからです」
幸せな社会とは
「人を結果だけで判断する社会では、『成功者』として評価されるのは、おそらく全体の10パーセントぐらいになるでしょう。そして残りの9割は『敗者』になってしまうのです。結果で人を判断すると、社会の9割は負けた人になるということです。僕にはそんな社会はいい社会だとは思えません。
結果ではなく、努力や人柄という点で人を判断する社会だったら、誰もが認められる可能性があります。結果より経過を重視する社会は、多くの人にとって幸せな社会なのです」
努力すれば伸びる
ピーターさんは、お父さんの生き方を見て、「やっぱり学ぶというのはすごく楽しいことなんだ、もしかして、人生で一番の喜びなのかもしれないぞ」と思ったそうです。「なにも教えてくれないくせに『勉強しなさい』とくどくど言ったりするのではなく、自分の行動や生き方を通して学ぶ楽しさを伝えてくれた父に、僕は感謝しいています」と言います。
ピーターさんは、努力し続けた人は必ず力を伸ばすことができる、と言います。
「学力はあなたの努力次第で変化するものですから、勉強すればどんどん伸びていくし、勉強しなければ覚えたものは忘れていきます。同じくらいの学習能力をもった人のあいだに、結果的に大きな差が生まれても、決して驚くべきことではありません。
単純化した計算ではありますが、基礎学習能力を、『1時間集中したときにどれくらい物事を覚えられるか』というように定義します。たとえば、70の能力を持っている人が1日3時間勉強すると、その1日で、70×3で210の成果を得ることができます。平均的な100の学習能力を持った人が2時間勉強すると、100×2で200、130の高い学習能力を持った人が1日1時間半勉強した場合は130×1.5で195となります。この計算では、この1日では、基礎学習能力で一番低い人が、結果的に一番伸びたことになります。
あなたがいくら頭が良くても、勉強しないとなかなか伸びません。自分はあいつより頭がいい、などと思っていても、あなたが怠けていてその人が努力すれば、きっと追い越されてしまいます。もちろん1日や1週間ではたいした差にはなりません。しかし、1年、2年、10年と続くと、逆転は十分可能なのです。
僕は50年以上生きてきましたが、いろいろな人を見て実感するのも、やはりそのことです。10代のころの同級生にしても、20歳で大学で知り合った友達にしても、出会った時に一番才能があるように見えた人が結果的に一番伸びたというわけでありません。たとえば精神的な問題を抱えてしまったりして、非常に才能はあったけれども勉強し続けられなかった人と、逆に、それほど目立った才能があるように見えなかったけれどもずっと努力し続けた人を比べてみると、結果として、やり続けた人のほうが伸びたということを、僕は何度も強く感じました。もちろん大事なのは人ではなく自分との比較ですが、みなさんにも、努力すれば伸びるということを信じてほしいと思います」
学び舎の子どもたちを見ていても、努力している子どもは力を伸ばすことができていますが、勉強をさぼっている子どもは、力を伸ばすことができていません。「努力すれば伸びる」ということは、断言できます。ただ、気をつけてほしいのは、努力してすぐ成果が現れる場合としばらくしてから成果が現れる場合があることです。心に留めておいてもらいたいのは、「勉強の努力は必ず報われる」ということです。この25年間に1,000人以上の子どもたちの勉強をみてきましたが、努力して力を伸ばすことのできなかった子どもは一人もいませんでした。
家庭のコミュニケーションチェック10
子どもが「よし、がんばろう!」と思う気持ちは、家族とのあたたかい会話から生まれます。
ご家庭での日頃のコミュニケーションを以下の10項目でチェックしてみてください。
家庭のコミュニケーションチェック10
- 日々の基本的な挨拶(おはよう、いってきます等)がしっかりと交わされていない。
- 子どもに何かを尋ねると、生返事や単語しか返ってこず、突っ込むと怒りだしてしまう。
- 子どもの部屋に自由に入ることが出来ず、中の様子がほとんど判らない。
- 子どもと友達感覚で仲がいいが、けじめがなく、悪いことを叱ることが出来ない。
- 携帯電話やパソコンのメールで、友達とのコミュニケーションには際限がない。
- 子どもの現在の興味の中心や、将来の希望などを把握していない。
- 家族が子どもの問題行動や言動を指摘しても、改善の兆しがほとんど見られない。
- 家族や親戚の中に、子どもから絶対的信頼を勝ち取った年長の者がいない。
- 学校や塾での出来事について家族にほとんど話さない。
- 学校や塾からの通信文・成績表や行事案内をきちんと渡さない。
チェックが一つもないご家庭は優秀です。やる気満満の子どもに育っているはずです。
子どもと家族がいい関係になれば、子どもは意欲を持つことができると思います。