本当の楽しみ、本当の学びを知る
学び舎通信 153
本物の感動とめぐり会う
子どもたちが考える力をつけるために、なるべく指示を与えないようにしています。最初は戸惑っていた子どもたちも、やがて自分の頭で考えて、独りで判断し、行動できるようになります。
自分独りの力でやり遂げたときに、本物の感動とめぐり会うことができます。誰かに頼ろうという気持ちをもっていれば、どれだけ努力を重ねても、無意味で無価値なことになってしまいます。
大きな感動を得るには、独りでする大きな努力が欠かせません。労力と時間をたっぷり注ぎこみ、次々に押し寄せてくる幾多の難問を解決し、失敗や挫折を繰り返して、初めて本物の感動に浸ることができるのです。だからこそ、人生は面白いのです。
他人が用意した感動など、見せかけの感動でしかありません。ただお金を払うだけで、労せずして安易な感動に浸ることに慣れてしまっている人は、本物の感動を知らないまま一生を送ることになります。内に秘めた能力を発揮しないまま、やり方しだいではかなり面白く生きられたはずの人生をほどほどの面白さに満足してだらだらと終えてゆくのです。
ひとつの道を極めてゆく正真正銘の喜びを味わうためには、じっくりと構えて、自分独りの力でやり遂げるという気概が必要なのです。
自分をコントロールする
自分をコントロールする体験を積むことは、コントロールする力自体を強化することにつながります。
自分をコントロールする力を身につけやすくするために、小さい頃から、「やりたくなくても、やるべきことはやる」「やってはいけないことはやらない」と自分の欲求を制御する能力を育む必要があります。これが弱いとやり遂げる力が低下します。
十分な愛情と安心を与えるとともに、ダメなことはダメと止める訓練を始めます。欲しがったら何でも与えるというのでは、自己コントロール能力は身につきません。過保護な養育が自己コントロール能力の獲得を妨げてしまうからです。幼い頃に過度に甘やかされた人は何にでも依存しやすくなります。
目先の欲をコントロールするように心掛けます。嫌いなことができたときも、したいことをしないで済ませたときも、「よくやった」と自分に言うことです。それを積み重ねていきます。子どもに対しても、そういう視点で接します。「今欲しいけれど、先のことを考えて我慢できたね」とか「今は嫌だけど将来のために努力できたね」ということを評価します。
自分をコントロールすることは、目先の快楽、つまり、長期的には自分を損なう行為を慎むことです。短期的には苦労を伴いますが、長期的に見ると報われます。自己コントロール能力を身につけることで、あらゆる依存症から身を守り、寿命を延ばすことも実証されています。小さい頃から勤勉な生活習慣と価値観を身につけさせることは、子どもに一生の宝を与えることになります。
本当の楽しみ、本当の学びを知る
自分をコントロールする力を身につけるためには、普段から楽しみばかりを与え過ぎないことです。
普段の日はできるだけ単調に質素に暮らします。休みの日も、ただ遊ぶために遊ぶのではなく、一緒に家事をしたり、作業したり、根気のいることに取り組みます。それをやり遂げることで、真の楽しみを教えます。こういう生活が自己コントロール能力を育むのです。遊園地やショッピングセンターやゲームセンターなどの商業施設では、欲望をかき立てられるばかりで自分をコントロールする力を養うことはできません。
また、教育工場のような学習塾も形を変えた商業施設です。そういう所に通っている子どもたちは、教育を受けることを、商品を買うことのように思っています。「それを勉強するとどんないいことがあるのですか」と訊く賢い消費者的な子どもたちは、他人が作成した計画に基づいて、予め用意された知識や情報だけの暗記を求められているので、それ以外のものには見向きもしません。そんなふうにすることで、本人はきわめて効率の良い学び方をしていると思っています。しかし、他人が予め下絵を描いた計画に基づいて学ぼうとする者は、自分で知る力を弱めることになります。自分で知る力とは生き抜く力のことです。その力を弱めることは、言わば、緩慢な自滅に他なりません。 学ぶことの本当の楽しさは、自分で課題を決め、計画を立て、力を尽くし、それをやり遂げることでしか味わうことができません。