勉強に必要な2つのこと 灘高生からのメッセージ
学び舎通信 97
はじめに
新たな学年が始まり、もう2ヶ月が経とうとしています。もう、新しい学校、新しいクラスには慣れましたか?まずは、自己紹介から始めましょう。
皆さん、こんにちは。高校1年生のHです(実名は当分の間、隠しておきます)。
僕は小学2年生の時にこの学び舎に入塾しました。小さい頃は、あまり勉強したという記憶はなく、むしろ山や川で虫を捕まえたりして、遊んでいました。自然のものは何でも好きでしたが、特に虫への関心、好奇心が強かったです。
しかし、学び舎へ来てから勉強の面白さに気づき、虫捕りと同じくらい勉強に熱中していきました。
《勉強なんてちっとも面白くない》 という人もたくさんいるようですが、そんなのはまったくのウソです。こんなことを書くと《絶対にありえない!》と反発してくるかもしれませんが、そういう人たちは勉強をあまりしていないだけです。真剣に勉強したことがないので、勉強のほんとうの面白さがわからないのです。
実際、一度、勉強に熱中してしまうと、そう簡単にはやめられません。皆さんは勉強に熱中したことがありますか?一度こういう経験をすると大きな感動を覚えます。今までの《勉強は面白くない》という自分の考えが間違っていたことに気づき、勉強に目覚めるでしょう。
勉強について
ここでは、「どの教科をどのように勉強すればよいのか?」などといった具体的な方法については述べません。(後に述べる予定です)
本質的なことを言います。学び舎に来ている皆さんは別ですが、《勉強というものは、大きな塾に通って山のように出される課題を夜遅くまでするものだ》と思っている人がいます。しかし、それは大きな間違いです。そんなことをしていると、高校や大学へ進学したとき伸び悩むことは必至です。
実際、僕が私立中学に進学した時に、大規模な受験専門の塾で詰め込み教育によって育てられてきた多くの同級生たちが落ちこぼれていくのを目の当たりに見てきました。そのような勉強の仕方では、大人になってから、目まぐるしく変わる現代社会に適応できる能力をつけることができるとは、到底考えることができません。
では、どうすればよいのでしょうか?
自分から進んで積極的に物事(もちろん、勉強も含みます)に挑戦し、克服していけばよいのです。
そのためには、大きく二つの事柄が重要になってくると思います。
一つは、何事も恐れず興味を示し、取り組んでみようとする「旺盛な好奇心」。
もう一つは、途中で投げ出さずに物事を最後までやり遂げようとする「根気強さ」。
集中力は、この根気強さから生まれてきます。こういった力をつけることで、君たちの能力(勉強だけに限らず)は、飛躍的に伸びることでしょう。僕もこのことを意識しながら、今まで勉強してきました。そのため、今もテストなどは安定して高得点が続いています。
遊びにひそむ“病気”
さて、勉強するのに必要な「旺盛な好奇心」、「根気強さ」はどこから生まれてくるのでしょうか?
答えは、日常の遊び(あるいは趣味)にあります。
《えっ!?どういう意味?》
それでは、まず、例をあげましょう。
僕の場合は、周りから「虫博士」と呼ばれるくらい虫が非常に好きでした。また、父は登山が好きで、小さい頃からよく一緒に山に登りました。そのため、虫のみならず、自然が好きでした。毎回、山で知らない昆虫や動物や鳥や植物に出会いました。山で出会った生きものたちについて、家に帰ってからすぐに図鑑で調べました。こういう体験を通して、好奇心がすくすくと育っていったのです。そして、採ってきた虫は、家で飼育して何時間もずっと眺めていました。このことで、観察力がつき、さらには、根気強さがついたのです。
さあ、皆さん。遊びの重要さが分かっていただけましたでしょうか?おっと、ここで注意しておかなければならないことがあります。いくら遊びが大事だといっても、ゲームや携帯電話などは絶対にいけません。自分でしっかり時間を区切ってできるのならいいかもしれませんが、やはり、手を出さないほうが無難でしょう。こういったものは時間を浪費するだけではなく、勉強をする意欲自体を消失させてしまう危険物です。というのも、僕が通っていた智辯学園和歌山中学校でもこの“病気”(つまり、ゲームにのめり込み、ケータイに夢中になって、勉強が手に負えなくなってしまうこと)が大流行していたからです。この“病気”にかかってしまった人は、一人残らず、勉強の進み具合が周りより遅れ、《気づいたときにはどうしようもないようになってしまった…》というのが現状でした。
僕はケータイもゲームも持っていなかった(というより、こんなものにはまったく興味がありませんでした)ので、この“病気”にかかりませんでした。
《や、やばい。この“病気”にかかっているかも…》という君は、いますぐ治そう。特効薬は、君たちの強い意志です(お大事に…)。
灘について
さてさて、僕の勝手な考えをだらだらと書いてきましたが、僕が今通っている灘高校について少しお話しましょう。
灘高校は、兵庫県神戸市東灘区の閑静な(静かなという意味)住宅地に位置し、北には六甲山(美しい山です)、南は海(大阪湾と瀬戸内海の間くらいでしょう。淡路島もうっすら見ることができます)に面しています。歴史はわりと長く(といっても、西信小ほどではありませんが…)、1927年(昭和2年)に創立されました。「灘」という感じが複雑なわりには、校則という校則がなく、自由な学校です(制服もなく私服で通学しています)。
4月8日、「登録有形文化財」に指定されている創立当時のままの本館講堂で入学式が行われました。入学生全員の名前が呼ばれた後、校長先生のお話、学校生活についての諸注意、高校1学年の先生方の紹介に続いて、記念撮影。あっさりした入学式で、「あっ」という間に終わってしまいました。
4月9日に始業式がありました。余裕をもって5時に起き、6時7分発の電車に乗り、8時(始まる30分前)に学校に着きました。驚いたことにまだ誰も来ていませんでした。あまりに閑散としているので(学校が休みなのかなぁ)と思っていると、8時20分頃にぞろぞろとやって来ました。灘高生はおとなしいのかなと思っていましたが、意外にもにぎやかでした。中には、廊下に寝転んで数学の専門書を読んでいる風変わりな人もいました。(続く)
H君に「後輩たちに何か書いてくれないか」と言うと、上記の文章を書いてくれました。「まだ続きがある」そうなので、しばらくの間、連載していきます。
自然からの贈り物
H君は「勉強するのに必要な『旺盛な好奇心』、『根気強さ』は、日常の遊びから生まれる。そして、自然の中で遊んだことによって、『旺盛な好奇心』や『根気強さ』が育っていった」と書いています。これは非常に大切なことなので、少し説明を加えます。
多くの教育研究者たちは「多様な自然の中での熱中体験が学力面で良い結果をもたらす」ということを指摘しています。
最近、興味深い調査データが公表されました。国立青少年教育振興機構が成人5000人を対象に、子どもの頃の生活体験と大人になってからの資質や能力の関連性を調べるために行ったアンケート調査です。「海や川で貝や魚を捕る」や「夜空いっぱいに輝く星をゆっくり見る」という経験をした人の多くは、「何でも最後までやり遂げたい」と回答しました。つまり、小さい頃に自然に触れた経験が豊富な人のほうが、大人になって「最後までやり遂げたい」という意志力や、「もっと深く学びたい」という意欲のレベルが高いということです。
「かしこさ」について考えます。「かしこさ」には二つの意味があります。「記憶力が高い」というかしこさと「予想する能力が高い」というかしこさです。
「記憶力が高いかしこさ」は、「学習能力」と呼ばれるものです。学習は経験したことを繰り返すことです。「予想する能力が高いかしこさ」は、「知能」と呼ばれるものです。知能は経験していないことを予測することです。人間にとって「学習能力」も「知能」も大切ですが、生き抜いていくにはやはり「知能」がないとだめでしょう。
「知能」を高めるにはどうすればよいのでしょうか?「子どもを自然の中に放り込むといい」と多くの研究者たちは言います。子どもは自然と向かい合い、新たな遊びを自ら考え出します。例えば、子どもは自然の中で、虫の行動や波の動きや雲の動きをぼうっと眺めていますが、ある段階でそれらの動きにじぃっと吸い込まれます。じっと観察しているうちにパターンを発見します。ある種の規則性を見つけるのです。こうして「自然の中での遊び」によって科学性が育まれます。こういうことはゲームなどの人工的な環境の中では絶対に起こりません。