教える難しさ

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教える難しさ

学校で習うようなことは他人に教えたり教えられたりしてきました。

人に何かを教えるのは好きなのですが、うまく教える(本人の意欲を減じることなく、必要なことをきちんと習得する手助けをする)となると難しさを感じます。

自分が所属する部は3年前に滝登攀中の滑落事故が立て続けに起きたこともあって、沢登りをする人がいなくなり一時期途絶えました。それを自分たちの代から復活させようということになって、同期2人と動きました。自分たちは上の代からの指導を受けておらず、外部のクライミング経験者から講習を受けて必要な技術を習得しました。従って下の代への指導も手探り状態でした。

後輩への沢登り指導は昨年の秋から始めました。内容は、ロープワーク、滝の登攀技術、ルートファインディング能力(安全で確実なルートを探す力)、時間の管理、リスクマネジメント…など多岐にわたります。具体的には、ハーケンの打ち方・ロープの扱い方・滝や岩壁の登攀といった身体を使うことから、進退判断・ルート選びのように頭を使うことまで教えていく必要があります。

沢登りは部の活動でも最も危険が伴う分野であるため、必要なことは確実に身につけていなければなりません。カラビナの安全環の締め忘れ、クライマー確保時の支点の強度、登攀ルート判断…。すべての要素が命に関わっています。ロープワークに関してもすべての手順を間違いなく正確に行う必要があります。どれか一つでも間違えたり、おろそかになったりしてしまうと、大事故につながる可能性があります。あらゆる状況・選択肢がある中で、いかに安全に遡行を完了できるかが大切です。

最終的な目標は、後輩が自分たちの手で沢登りの山行を企画し、無事に遡行して帰ってくることです。そうなるためにはたいてい2年間以上の指導が必要なのですが、最初にすべきことは決まっています。大学に室内クライミングウォール(人工壁)があるので、登攀技術の向上、基礎的なロープワークの訓練を行います。その後、初心者として沢に連れて行き、滝を確保された状態(命綱がついていること)で登り、沢での行動に慣れてもらいます。

沢での行動が安定したら、命綱なしで滝を登っていきます。自由度は大幅に増えますが、その分危険が増えます。命綱がついていないので、足や手を滑らせてしまうと当然ながら落ちてしまいます。自分でルートを考えてそれに挑戦します。自身の力を見極めてそれに見合った行動をとらなければなりません。滝や岩壁がのぼれないということは自らの登攀力が足りなかったか、ルートの取り方を見誤ったかのどちらかです。緊張感を伴いながらの登攀になりますが、この時期を経ることで登攀力・判断力は向上していきます。

さて、ここから本格的な指導(養成)が始まります。先ほども述べた通り、沢登りは危険が常に伴います。その危険をしっかりと認識して、少しでもリスクを減らせるように鍛錬していく必要があります。判断力を養うには経験を積むしかありません。いろいろな種類の沢に連れて行き、数多くの滝を登ってもらいます。岩が脆くて崩れやすい滝、ぬめりのある苔がついていて滑りやすい滝、水量が多くて体が冷える前に登りきらないといけない滝…。こまめにフィードバックする(反省点・改善点を的確に伝える)ことによって総合的な力を身につけていきます。

どう教えるか

自分は人に厳しくすることがあまり好きではないため、普段は口調も含めて優しく接しています。

最初のうちは、もたもたしすぎている後輩についつい口を出しそうになることも多いですが、そこはじっとこらえます。毎回毎回、厳しい指導だと指導を受ける側がやる気をなくしたり、怖がって挑戦を辞め(滝を登攀せずに巻いて安全確実なルートに終始し)たりしてしまいます。不安定な精神状態も事故につながるため、後輩の意欲を削がないように気を付ける必要があります。

もちろん、間違ったこと(安全性に関しての問題)があるときははっきりと指摘し、同じ間違いを繰り返した場合は、厳しくそのことを指摘するようにしています。不完全なシステムで後続者を確保してしまうと、登攀者と確保者の双方が滑落してしまう危険があります。事故につながることはきちんと認識していないと、再発してしまいます。

私が念頭に置いているのは「沢を楽しむ」ことです。そのために、私自身が楽しそうに沢を登っている姿を見せることを心がけています。その姿を見て後輩があとに続いてくれればと思っています。

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学び舎タイムズ編集部

教職歴37年。中学・高校教諭、予備校講師を経て、1996年6月に小さな個人塾を開塾しました。
「将来的に役立つ学力を身につけた子どもを育てたい」という想いから生まれた、こだわりの天然木造教室は保護者からも好評です。

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