自主性を育てるには? 自己成就予言

学び舎通信 140

目次

自主性を育てる

心理学者のトーマス・ゴードン博士は、「『…するように』とか『…しないように』という命令、つまり相手に押し付ける行為は、反論や反抗を生む」と言っています。さらに、「『…すべき』とか『…すべきでない』という説教はうんざりした気持ちを生み、相手を防衛的にさせますし、『勉強をしたら』という提案も、反抗や依存心を生む」と言っています。

人間は元来「自分は自分の意志で決定し、行動している」と思いたい性質を持っています。ですから、「勉強しなさい」と子どもに言うことによって、プラスの結果を生み出すことはありません。

それよりも自主性を育てた方が、子どもは気持ちよく勉強できます。教育学に大きな影響を与えたアメリカの心理学者マズローは、「人間が行動を起こす動機は欲求である」と考えました。

マズローが唱えた「欲求階層説」で、「人間は本来認められたいと願う『承認欲求』を持つものだ」と言っています。ですから、子どもがきちんと勉強したときに、「よくできたね」と褒めてあげることが大切です。認められ、欲求が満たされた子どもは、「次も褒められよう」と思って勉強を頑張ります。

また認められると、次は自分の能力を高めたいと思う「成長欲求」の段階に移り、自主的に行った行為で達成感を得たいと思うようになるのです。

ピグマリオン効果

人の思い込みの力がどれだけ強いかを顕著に表わしたものでは「プラシーボ効果」が有名です。

「これはよく効く薬です」と患者にただのブドウ糖を飲ませたとき、思い込みにより本当に病気が治るというものです。このことから、いかに脳の思い込みが結果を変えていくのかがわかります。

思い込みの力を勉強面で活かしたものが「ピグマリオン効果」です。教育心理学で明らかにされた「期待することで勉強の効果が変わってくる」という現象です。親の子どもを見る目が変わることで、子どもの成績が変わるということです。子どもに期待を込めて見守ることで、子どもの脳は無意識のうちにその期待に応えようとし、その結果、成績の上昇率が変わるのです。

自己成就予言

似たもので「自己成就予言」というものがあります。まったく根拠がなくても「あなたは勉強ができるね」「成績が上がっていくね」などとあらかじめ良い評価を与えると、子どもに自信が生まれて、その期待に沿うような行動をとり、結果として良い成果を生むことを言います。期待を込めて褒めてあげることで、自信を持たせられれば、自然と勉強に向き合う姿勢が変わってきます。

反対に、親が子どもに対して全く期待しないことで、子どもの成績を下げてしまうことがあります。「なかなか成績が上がらない」というような意識で接していると、子どもは「自分は勉強ができない、期待されていない」と感じて、本当にその通りの結果になってしまうのです。

人間は受け取る言葉・情報・態度により、意識的なものであれ、潜在意識的なものであれ、行動が変わってしまうことが数多くあります。そのため、特に受験生に対する発言や態度には、できる限り気をつけてください。

もし「あなたは成績が悪いから」なんて言い続ければ、「どうせ自分はダメだ」と思い込んでやる気をなくしてしまい、結果として本当にダメになってしまうこともあるのです。人間の脳は、思っている以上に言葉に左右されます。たとえ成績が悪くても、否定的な言葉はマイナスにしか働きません。「やればできる」という期待を込めてあげたほうが、実際に成績が伸びます。

受験勉強で身につく力

願望を現実にするために役立つのが、受験勉強で得た能力です。受験勉強に真剣に取り組むことで、目的地に至るまで、自分の持っている手段を使って、「こうすれば行ける」という最も効率的な道を選ぶ力が鍛えられます。

受験勉強では数学の問題をひたすら考え、解いていきます。日常生活の中では、「目的地に着く最良の道をひたすら考える」というような機会はそんなに持てません。他にも、時間を管理する力、ストイックさ(自分に対する厳しさ)、努力する力、いつまでに何をするという自己管理能力も養うことができます。受験勉強に真剣に取り組むことで、日常生活の中では鍛える機会が少ない力を身につけることができます。

手探り勉強法

中学生の頃、いろいろな勉強法を試してみました。いろいろな方法を試し、手探りしながら、「自分の勉強法」を見つけることができました。

朝は、数学の問題を解いたり、英文を読んだりしていました。午前中の頭が鮮明なときでないとできないものから手をつけた方が得策です。また、寝る直前に暗記して、朝、起きたときに暗記したものを復習していました。これは非常に効果的な勉強法です。勉強の順番としても、寝る直前の暗記は理にかなっているからです。

大量の暗記をするときには、1回で細かく覚えるより大雑把に何度も繰り返す方が楽に覚えられます。

人間には視覚、聴覚、触覚など様々な感覚があります。情報を脳に届け、さらに体中に伝えるため、感覚神経と運動神経が張り巡らされています。

英単語の暗記をするときは、主にノートに覚えるべき単語を声に出しながら書くという方法をとっていました。そして、自分でテストして暗記できていたことを確認しました。

この単純な勉強法は、脳の感覚機能や運動機能を存分に動かしていて、非常に効果的なものです。まず、暗記するときに、手を動かし書くことで触覚を使っています。当然、その字を目で見ているので視覚も使っています。単語を声に出すために口を動かしていますし、それが耳に入るときに聴覚も活用されます。素朴な勉強法ですが、脳をフルに活性化させ、記憶を助けることに関しては、とても理にかなっています。

フィードバック(feedback)

リチャード・バンドラーの名言に「失敗は存在しない、ただフィードバックがあるのみ」というものがあります。フィードバックとは、結果や反応を見ながら再調整するという意味です。

ひどい成績を取ったとき、「悲しい」「悔しい」という思いをします。でも、こういう感情は「もっと頑張らなくては」という強い原動力にもなります。  

悪い成績は失敗のように見えますが、フィードバックすることで、良い効果を生み出した例を数多く見てきました。そういう子どもたちは、「悔しさをばねにして頑張りました」と言います。

「失敗は成功の基」という諺があります。「物事をしくじっても、その原因を突き止め、同じ過ちを繰り返さなければ成功への導きとなること」という意味です。

テストで問題が解けなくて間違いばかりだったとしても、フィードバックして復習すれば、まだその分だけ多くの知識をつけられる、人よりたくさん伸びることができる、とも捉えられます。失敗はむしろ有り難いものなのです。

また、成功の法則を研究したナポレオン・ヒルは、「逆境の中には、すべてそれ相応かそれ以上の大きな利益の種子が含まれている」と言います。

成績が悪い、問題を解いても間違ってばかり。だから志望校のレベルを下げよう、という考え方は失敗のレベルに自分を合わせてしまう、最も成長しない道でしょう。失敗の中から種を見つけて育てるか、放棄するかは、全て自分次第なのです。

書くことで実現率が高まる

ハーバード大学の研究では、被験者たちに自分が将来やりたいことを紙に書いてもらいました。すると10年後、紙に書いた人たちは普通の人たちに比べ目標の実現率が2倍以上高くなっていたそうです。

中学生の頃、毎朝、「その日にやること」を書き込む時間割を作っていました。「この科目を何時からどれくらいやろう」という計画を30分単位で横軸上に区切り、おおまかな予定を立て、勉強しながらずらしたり削ったりしました。だらだら勉強することなく、スピードを意識して意欲的に取り組めました。

時間割を作らないと、1日の勉強した時間の感覚は曖昧になります。それより時間割を作ったほうが、「自分は今日こんなに勉強したのだ」という具合を目で見て確認できるので、達成感を強く得ることができます。

達成感を得るために、時間割に加え、暗記や問題を解くときに使用したノートも捨てずにとっておきました。次々にたまっていく「勉強した証」を見るたびに「こんなにいっぱい勉強したのだから、自分はきっと合格できる」という自信につながっていきました。

入試本番から逆算して、やっておくべき問題集をいつまでに終わらせるという計画を立てることで、最終的には「終わらせておきたいこと」すべてを完了することができます。「やるべきこと」を終わらせるために、締め切り日から逆算して、具体的な数字を設定し、ペース配分を決めることが、着実に目的地にたどり着くための鍵となります。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

学び舎タイムズ編集部

教職歴37年。中学・高校教諭、予備校講師を経て、1996年6月に小さな個人塾を開塾しました。
「将来的に役立つ学力を身につけた子どもを育てたい」という想いから生まれた、こだわりの天然木造教室は保護者からも好評です。

教室の詳細を見る
ご挨拶

リクエスト募集中!

記事のテーマを募集しています。

リクエスト募集要項
  • 勉強や子育ての悩み・相談をお気軽にお送りください
  • 学び舎代表と東大院生が紙面上にてご回答差し上げます
  • 投稿フォームよりお送りください(すべて匿名処理します)
目次